第13回『このミス』大賞 2次選考結果 茶木則雄氏コメント

大満足の二次選考会――史上最強の大賞候補が出揃った!

 個人的には、大満足の二次選考会であった。絶対に落としたくない、と考えていた大賞候補3作がすんなりと最終に残り、例年だったら優秀賞もしくは隠し玉かなあ、と思っていた3作が、これまた議論の末、二次を突破した。もう、満足も満足、大満足でお腹いっぱいである。それにしても、これほど高レベルの大賞候補が顔を揃えた年も珍しい。
 一次通過作品の総体的レベルで言えば、今回より水準の高い年はあったが、甲乙つけ難い大賞候補が――磨けば必ず光る金剛石の原石が、三つも埋もれている年なんて、「このミス」大賞史上はじめてだ。

 このサイトのファンならご承知かもしれないが、私と千街氏のA評価が一致することはあまりない。本格ミステリに深い造詣とこだわりを持つ氏と、エンタメ上等、面白ければなんでも来いの私では、そもそもミステリー観が違う。過去に遡って調べてみたところ、A-の消極的評価も含めてA評価が一致した作品は、なんとそのほとんどが、大賞、優秀賞、隠し玉と、何らかの形で出版されている。それが今回、3作ともAないしA+の高評価で一致したのである。A+が被ったときは、選考会場に期せずしてどよめきが起こったほどだ(ま、どよめいたのは主に私だけど)。

 以前にも書いたが、「このミス」大賞の選考は、A、B、Cの三段階で評価を下す。それぞれ+-がつくので、実質的には9段階評価だ。私の場合、A+は1本と決めている。Aに+をつけるというのは、強烈な意思表示であって、誰がなんと言おうと、この作品は死んでも守る――千万人と雖も吾往かん、の気概を示すものだからだ。これを落とすなら、俺の屍を乗り越えて行け、という覚悟で議論するので、非常に疲れる。他の選考委員の賛同を得てすんなり決まる場合もあるが、多勢に無勢で、最終的に涙を呑んで屍を晒したことも、なきにしもあらず、だった。
 本来は3作ともA+の評価だったが、そのうち2作は比較的問題なく残るだろうと読んで議論が紛糾しそうな1作にだけ、A+の評価をつけた。なんとそれが、千街氏のA+と一致したのである。
 13年目にして初の快挙である。ちなみに村上氏と評価が一致することはよくあって、今回の最終候補でも2作は、+-も含めて完全に評価が一致している。もっとも、千街氏と村上氏の評価が被ることもよくあるので、まあ、言ってみれば二次選考会は、つねに三竦みの状況にあるわけで――だからこそ、毎回、長時間の議論が必要になるのだろう。

 さて、落選した作品についてだが、今回は村上氏が異例の分量で、実に懇切丁寧な講評を書いている。褒めどころは若干異なるが、落選作の欠点については概ね同意見だ。
『仏像探偵 古寺を行く』には実際の仏像の写真が作中にコピーされているが、これは逆効果。その姿形を、文章で読ませてこその小説だろう。取材力に定評のある作家が共通して言うのは、十調べたら一しか書かない、という点だ。『仏像――』も『禁書』も薀蓄を詰め込みすぎで、リーダビリティを損なっている。
『イカのタワー』『ムラサキ』は、その奇抜な発想を買うが、全体に纏りを欠いている。前者はどうまとめていいか作者自身が迷った末に時間切れになった観がありありで、似たテイストのホラー大賞受賞作『かにみそ』に比べると、完成度は一段も二段も落ちる。後者は、完全なバカ話で、「リアリティ? なにそれおいしいの?」的開き直りが感じられる。作者が楽しんで書いているのはわかるが、もっと読者への配慮をすべきだろう。
 同様の欠点は『ノーマンズ・アイランド』『MIND MAN』『真美の恋』『誑惑のキャットウォーク』にも言える。読者を楽しませてこその、エンタメだということを、いま一度、肝に銘じていただきたい。そのためには、リアリティや整合性に気を配り、物語の説得力をどう高めるかに腐心すべきだ。
『ブラックリスト』『かくれんぼ』『旅の記憶』は、私に言わせれば典型的な一次止まりの作品。題材、プロット、キャラクター、文章力――すべてに、突き抜けるものがない。自分の限界はこんなもの、と思わず、もっともっと、脳に汗をかいてください。
『未来人がきた!』は常連応募者の作品だが、個人的には今回の作品がもっとも素直に楽しめた。警察が出てこないので、イライラが減ったためだろう。ただ、詰めが甘いのは相変わらずで、タイムパラドクスについても流し過ぎ。
『おお! サンタマリア!』『悲しき煙塵の果て』はともに海外を舞台にした作品。前にも書いたと思うが、たとえ日本人が主人公であろうと、海外を舞台に作品は、新人賞においては極めて不利だ。よほどの傑作でもないかぎり、まず受賞は無理だと思う。両者とも筆力はあり、読ませる力は持っているが、如何せん、新味がない。特に後者の気障なタイトルは作品の首を絞めるだけだと思うが、なぜ、自分で自分の首を絞め、あえて狭い門を潜ろうとするのだろう。心より、方向転換を勧めたい。
『いのちの研修』『リッパーマニア』『完全寛解』『蛾蝶の舞う夜に』の4作は個人的に面白く読めた。どれも惜しい作品で、例年であれば最終に滑り込めた可能性もある。ディテール、プロット、文章力、キャラクター造形等において二次の平均を上回っていたが、それぞれに欠点がある。千街、村上両氏と概ね同じ意見だ。諦めずに来年も是非、応募していただきたい。
 
 今年の一次通過作品を読んで驚いたのは、一作も、警察小説がなかった点だ。大半が刑事すら登場しない作品であった。ディテールに関して私がうるさく言ったためかもしれない。が、警察捜査の実態を知っておくことは(使うかどうかは別にして)、ミステリー作家の志望者には必須の心得と考える。応募者のためによい資料を紹介しておこう。小川泰平著『現場刑事の掟』『警察の裏側』(共にぎんが堂文庫)、法科学鑑定研究所監修『犯罪捜査ハンドブック』(宝島社)。参考にしていただきたい。
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