第13回『このミス』大賞 1次選考通過作品 神家正成

南スーダンの自衛隊宿営地で頻発する変事を
定年間近の准尉と若い士長のコンビが追う!
正統派自衛隊ミステリー

『深山の桜』神家正成

 国防の問題は一昔前とは比べ物にならないほどの関心を集めている。自衛隊を描いた小説はもっと点数が書かれるべきであるが、これはPKO派遣中の自衛隊の宿営地を舞台とする物語である。舞台となるのは日本から1万2千キロの彼方にある中央アフリカのスーダンだ。主人公は定年間近の准尉、所属はいわゆる工兵部隊であり、どちらかといえば縁の下の力持ち的な役割である。冒頭、まずは彼の視点から宿営地の情景が描かれていく。自衛隊内部の事情、特に階級の問題などがさりげなく解説され、なじみの薄い読者にもPKO派遣部隊が一気に身近なものに感じられてくるはずだ。そのベテランとコンビを組むのがまだ尻が青いといってもいいほどに隊歴の浅い士長という趣向もいい。年齢の離れたコンビの両面から事態が描かれることで、物語は複層的になるからだ。彼らが取り組むのは宿営地に最近頻発しているという変事の調査である。ささいなものが盗まれたり、怪音が鳴ったり、ということが続いていたのだ。それらの小事件は次第にエスカレートしていき、大事件へと展開していく。
 自衛隊を扱った作品では古処誠二の初期作品などを思わせる内容である。PKOという大義名分が優先される場所にあって、自衛隊員が建前と本音の相克に悩まされることになるのだ。物語を通じて主人公たちの内面には変化が生じ、自分が向き合わなければならないものを直視するようになる。そうした王道的なプロットではあるが、題材についてはよく考えられており、興味本位で書いたという感じは少しもない。しかも読者に対してテーマを押し付けてくるような、安易な姿勢もないのである。「このミステリーがすごい!」大賞としてはむしろ珍しいほどの、正統的なミステリーであると私は感じた。作者には筆力だけではなく胆力も備わっている。自信をもって即戦力として推薦する。

(杉江松恋)

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