第13回『このミス』大賞 1次選考通過作品 玖珂灰人

新たな大陸の出現で国家間のパワーバランスが一変した世界
少年少女は分断された日本の首都、大東都を目指して旅をする。
伝奇ロマンとサブカルチャーが満載のアクション小説

『ノーマンズ・アイランド』玖珂灰人

 玩具箱をひっくり返したような、と形容したくなる作品だ。「空白大陸」と呼ばれる大陸が北太平洋上に出現し、国家相互の力関係は大きく様変わりしてしまう。その中で日本は三つに分断されてしまうのである。そうした未来の物語であり、小説中にはさまざまな文化、特にサブカルチャーのキメラとしか言いようのない事物が氾濫している。物語の出発点は分断された日本の一つ、西日本大和国だ。そこで娼館に囚われていた少女を救った主人公は、彼女の頼みを容れ、仲間と共に隣国の東日本国の首都である大東都を目指すのである。物語の雰囲気は菊地秀行の魔界都市〈新宿〉シリーズなどを彷彿させる。〈九黎幇〉〈サモトラケのニケ〉〈闘魚〉といった敵組織や対決すべき怪人たちのネーミングを見ただけで、かつての伝奇ロマンファンは期待してしまうはずだ。
 文章は、軽い。意地悪な見方をすれば、上記のように個性的な味のある固有名詞が頻出するので、それに淫してしまっている面もある。もちろんそれでもいいのだが(固有名詞の連なりだけで読者をうっとりさせる小説があってもかまわない)、アクション小説としては主人公チームのキャラクターを個別にもっと掘り下げて書いてもらいたかった。少年少女の集まりであるから考え方が幼いのは仕方ないが、長い旅を経てもあまり成長の結果が見えて来ないのは惜しいところであった。もっともそうした軽い文体であるからこその美点もあり、後半部で主人公たちが空白大陸に渡ってからのアクションはそれまで以上にテンポがよく、一気に読まされてしまう。大衆小説としては、これだけ書き切る力があれば合格である。さらに注文をつけるならば、会話にあまり魅力がないことだろう。べらんめえ調と言うと失礼になるかもしれないが、その年頃なりの会話というものを少年少女の小説では書くべきだろうと思う。話言葉による人物の書き分けは今後の作者の課題である。

(杉江松恋)

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