第13回『このミス』大賞 1次選考通過作品 田中祐輔

かつてのヒーローたちが仲間の暴走を止めるために再集結
仮面の裏側で過去を引きずる、ヒーローたちの素顔とは――。
単純明朗なアクション小説とは一線を画す人物造詣に注目

『MIND MEN』田中祐輔

 かつて地球を救ったヒーローのその後を描いた作品である。同巧の作品は以前になかったわけではなく、最近ではたとえば久楽健太『アルファマン・リターンズ』などがあるし、リバイバルされた特撮ヒーロー映画の定番でもある。そういう意味で新味はなかったが、本書に横溢するヒロイズムを買った。かつてのヒーローたちは闘いの中で強敵を倒したが、同時に仲間の一人を死なせてしまい、失意の中チームを解散していた。その挫折者たちがもう一度集まるという話である。ただしその集合の仕方は甘いものではない。ヒーローたちの一人クライングスネークが悪の権化に転じ、元の仲間達を次々に手にかけていくのだ。なぜそんなことになったのか、という謎が一つの推進力になっている。
 仮面ヒーローたちの人には見せない屈託を描いた点も評価したい。周囲に称賛され、寵児となっていた時代のことを「自警団に過ぎなかった」と述懐する苦さがあり、それぞれが過去を引きずったまま生きている。甦った過去と闘うのは自分の過去と対面するということでもあり、その感覚は普遍的なものだ。全編がアクションの連続で紡がれているが、合間合間にこうした昏い自己批判が挟まれることで、単純明朗なヒーロー小説とは一線を画した人物造形が実現された。ヒーローものというだけで読者にはバイアスがかかってしまうと思うが、どうか一度手にとってみてもらいたい。さくさくと読めるアクション小説でありながら印象は爽快一途ではないという不思議な感覚を味わえるはずである。
 文章などの技巧面にもほぼ注文はない。短い文章の連なりで畳み掛けるような文体はこうしたアクション小説では当然の形態だし、視点が次々に移り変わっていく展開でも目まぐるしさは感じさせない。シーンごとの状況把握が的確にできているからだ。おそらく別の題材を使っても書ける人だと思う。将来性にも期待したい。

(杉江松恋)

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