第13回『このミス』大賞 1次選考通過作品 杉江松恋氏コメント

『彼岸橋』若菜悠月
『ケンジ 実翳社会』大木基
『壁の中の4/渋谷』穂波了
『聖氷』高森優

杉江松恋コメント

 今年は以下の四作を「次回作に期待」として推薦します。
 まず若菜悠月『彼岸橋』。この世界に対して違和を抱きながら肩身の狭い思いをして生きている子供たちへの応援歌としても読める小説です。一般小説なのかな、と思って読んでいると次第にファンタジーになっていく。そういう展開はいいのですが、全般的に作者の主張が重くなりすぎていて話の展開が遅いのはエンターテインメントとしては問題ありと感じます。読者を楽しませることを第一義に考えての話作りが必要でしょう。
 大木基『ケンジ 実翳社会』は一人称で書かれたSF小説です。こうした形の作品の場合、主人公に作者が肩入れをしすぎてバランスを欠いてしまうことがままありますが、本作も同様でした。主人公ケンジがやたらと饒舌であることに作者は疑問を持つべきだったでしょう。通読するとそれは主人公を贔屓するための都合主義になってしまっています。主人公以外の脇役に魅力が薄いのもほぼ同じ理由です。客観的に作品を見直してみてください。
 穂波了『壁の中の4/渋谷』もSF的な状況設定を作り、その中で登場人物たちに非日常的な生き残りゲームをさせるという内容です。こうした作品は新人賞応募作の定番となっていますが、ゲームのルール自体を新しくしていっても、もうあまり驚きはありません。この作者に必要なのは物語の枠ではなく、その中で演技をする役者たちの質向上だと私は考えます。奇を衒わず、正攻法のサスペンスを書くことに一度戻られるべきです。
 高森優『聖氷』は北朝鮮を舞台としたポリティカル・サスペンスでした。まだまだ北朝鮮には日本の読者にとって未知の部分が多く、題材だけでも需要があるため、賞によっては1次・2次通過が狙える内容だったと思います。しかしそれでは作家としての未来はない。題材に甘えるのではなく、小説の部分で勝負してください。たとえば馴染みのない固有名詞はどのようにすれば一般読者にもわかりやすく伝わるか。そうした小さなところから、今一度自作を見直してもらいたいと思います。
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