第13回『このミス』大賞 1次選考通過作品 岩木一麻

新しい形の医学ミステリー
患者の進行がんが2週間で消える謎に挑む医者
裏には怖ろしい団体の陰謀があった

『完全寛解』岩木一麻

 主人公四ノ宮洋二郎は、築地日本がんセンターの皮膚腫瘍医で35歳。中年の寿司職人の右手にできた4ミリの黒子を検査すると稀な悪性がんで転移もしている可能性が強く、職人のすぐ切っても保険金は下りるからその金で独立しようという思惑は外れ、四ノ宮は診断のむずかしさを痛感する。帰りに銀座の小料理屋へ行くと常連の青山という初老の紳士がいて、最近、若者が新型インフルエンザを流行らせて医療費のかかる老人達を駆逐しようとしていると話す。翌日、同僚から末期で見放した肺がん患者がなぜか治ったという例を聞いて驚く。新規の患者に篠崎結衣という美人がいて余命半年と告げると、余命半年で死亡保険金が下りる特約に入っていると結衣は言い、化学療法はせず、両親の入っていた宗教団体へ行きたいからと退院する。その法顕会では2週間で治るしお金はいらないと言っていて、2週間後戻ってくると、がんは消えている。さあ、どんなカラクリがあるのか、がメインの謎で専門用語たっぷりの解明へ続く。
 宗教団体が出てくるだけで小説はうそ臭くなるのが普通のところを、団体を始めたのが医者だという意表を突く設定で嘘を科学的にしているところがアイデアでしょう。
 説明の多い会話も医者の世界のせいでそれほど邪魔には感じません。この宗教法人の狙いのほうがわかりにくいし、テロの実行部隊はちょっと首を傾げてしまうレベルで、四ノ宮の妻の役割もとってつけたようで人物造形にふくらみが足りない気がします。
 ただ計算どおりに伏線を張って、過不足のない進行で仕上げてあるのは、知的なミステリーとして成立させようという狙いで、基礎能力の高い人だと思いました。

(土屋文平)

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