第13回『このミス』大賞 1次選考通過作品 冴木みえい

信州の小さな西洋骨董店を舞台にした
100年以上昔の懐中時計を巡るイギリスに始まる謎
女子大生が解明するのは呪い? 善意?

『旅の記憶』冴木みえい

 信州の大学へ入学した岡崎理紗が、地元で叔母が営む雑貨店を10数年ぶりに訪ねると、叔母はイギリス旅行中で店員の織川浩介が店で時計の修理をしている。祖母が残した懐中時計の修理を頼むと、100年以上昔にロンドンで作られたものとわかるが、理紗には見当もつかない。その時計を巡る物語は別の視点で語られていく。帰ってきた叔母が立ち寄って撮影した東屋のある薔薇園の写真が、時計の裏の絵と一致して、ノールズハウスという場所が特定できて、彫られたシャーロットという名前から元の持ち主が伯爵の孫娘とわかり、少しずつ謎が解けていくのと並行して祖母や織川に新たな謎が生まれる。ロンドンの悲惨な殺人事件とドイツとの戦争と対照的に、現代の信州は好感の持てる人物が次々に登場して丁寧に描かれている。
 自分勝手だから敬遠していた叔母、織川を好きな近所の少女などひとりひとりを愛情深く配してあって脇役の設定がうまい。
 ミステリーとしては事件が小さく、都合のいい偶然が続いたり、時計の変遷がきちんと説明できていなかったり、平凡な女子大生の周囲の人がいかにもの癖あり人物ばかりだったり、欠点だらけではある。
 それでも評価できるのは導入部に始まって文章に統一感があり、謎の重ね方、解決の読後感が気持ちいいから。
 つい甘くなってしまうほど、読んでいて作者の善良さ、物語ろうという姿勢に好感を抱いてしまう。これは得がたい特質ではないだろうか。

(土屋文平)

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