第13回『このミス』大賞 次回作に期待 古山裕樹氏コメント

草薙創志『限りなく純粋に近いグレイ』
長瀬遼『ドリーミング』

古山裕樹コメント

 応募作品を読むのは平日の夜更けのことが多くて、読みながら眠ってしまうこともしばしば。そんな中で、むしろ目が覚めて読みふけってしまったのが一次通過の三作であり、そしてこちらの二作でした。今回、一次通過には至らなかったものの、もしかしたら、もうひと押しで……と思わせるものがありました。

草薙創志『限りなく純粋に近いグレイ』
 前回に続いて、また読む機会をいただきました。
 神道に隠された秘密を守る人々と、その秘密を暴こうとする中国情報機関との暗闘というテーマは非常に好みではあるのですが、それゆえに説得力の弱さが気になりました。「中国がこれを暴いても、日本政府にも日本社会にもそれほどダメージはないのでは?」という疑問を拭い去ることができなかったので……。また、終盤のどんでん返しの激しさも、前作とは違った意味で手数が多いと感じました。主要登場人物のほぼ全員が自分の立場を偽っていた、というのは確かに強烈ではあるのですが、こんなにもどんでん返しが続くと読んでいる側も「またか」という気分になって、せっかくの効果も薄れてしまいます。
 なお、登場人物Aが人物Bになりすましている場面で、三人称の地の文で、Aのことを「Bは~」と記述するのはアンフェアでしょう。そうした叙述をあくまでもフェアにして、その上で読者を驚かせてほしいところです。
 随所に見せる凝った言葉遊びや、花の名前を使った仕掛けは、前作同様に素晴らしいと思いました。こうした美点は生かしつつ、新たなチャレンジに期待しております。
 

長瀬遼『ドリーミング』
 内定を取れずに焦る女子大生がたまたま手にしたタブレットには、驚くべきソフトウェアが。かくして彼女は、新技術をめぐる産業スパイとの争奪戦に巻き込まれ……という物語。
 就活に苦労する学生、うまく体質を改善できずに苦悩する日本メーカー、世界を驚かせるような新しいソフトウェア……という「いまどき」の素材を駆使しつつ、内容は典型的な秘宝争奪戦である、という地に足の着いたつくりには好感が持てました。
 ただ、現代を舞台にこういう物語を展開するときの最大の障壁――「ネットに繋げばいいのに」に対しては、対策が不十分です。「ここでネットにつないでああしていれば」と思える場面がいくつもありました。
 もうひとつの不満は、主人公にとってのハードルを下げてしまったところです。
 事態を打開するのが、主人公の知恵と機転ならばいいのですが、どちらかというと幸運の産物に見えることが多かったです。彼女を追う産業スパイの側も、決して優秀なプロフェッショナルというわけでもなく、適度にミスを犯していたり。特に後半、警察が関与するようになってからは、主人公のピンチもあまりピンチに感じられなくなったのは惜しいところです。
 ただ、書くことについては、かなり手慣れていらっしゃるという印象を受けました。土台はしっかりしているので、上に載せるものをもう一工夫していただければ……と思います。
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