第13回『このミス』大賞 1次選考通過作品 加藤笑田

殺しの仕事にしては、あまりに安い報酬。
だが、四組もの殺し屋が名乗りを上げて、標的をめぐって右往左往。
田舎町の町長選挙に、奇妙な殺し屋たちが暗躍する!

『キラーズ・コンピレーション』加藤笑田

 殺し屋の報酬。その相場は幾らくらいなのだろうか。いずれにせよ、百万円という報酬は、殺人の罪を犯す対価として高いとは言えないだろう。
 だが、そんな百万円の暗殺仕事に、四組もの殺し屋がエントリーした……というところから始まるのがこの物語だ。殺しのターゲットは愛知県の小さな町に住む69歳の男。この町では、隣接する市への吸収合併の是非を問う町長選挙の最中で、ターゲットは合併反対派の候補なのだ。
 そしてこの仕事にエントリーした四組の殺し屋たちとは――
 一人目は《ダイナモ》。強迫神経症のせいで一流の殺し屋の地位を失い、今では日々カウンセリングを受けている。殺し屋としての再起を賭けてこの仕事に挑む。
 二人目は、ロリータの色香で男を惑わして命を奪う、通称《不思議なアリス》……ではなく、その弟ミツル。音信不通の姉に会うために、彼は殺しの仕事とは知らずにエントリーしてしまったのだ。
 三人目は、殺し屋組合の経理担当者。税理士にして元詐欺師。実は殺し屋ではないことを暴かれそうになって、仕方なくエントリーするはめに。
 そして残るは、愛知県内だけで活動する殺し屋コンビ、《ニンベン》と《ゴンベン》。元地方公務員にして愛知県に強い思い入れを抱く彼らは、県内で他の業者に大きな顔をさせないためにエントリーした。
 そんな面々が、互いを牽制しながら町長候補を狙う。そもそも自分が殺しを請け負ったことに気づいていない奴がいたり、新たな殺し屋が参入してきたりと、状況はどんどん混乱する……。
 というわけで、調子の狂った犯罪コメディを楽しめる作品である。ターゲットをめぐる息詰まる駆け引きや攻防もあるけれど、それ以上に印象深いのが、全編を支配する混沌だ。大勢の登場人物がそれぞれ勝手に動き回り、事態をひたすらに混迷させる。いちおうは町長候補の暗殺をめぐるサスペンスといえなくもないけれど、ぐっちゃぐっちゃに予想外の展開に、ただ振り回されるのが楽しい作品だ。もちろん、展開が破綻しているわけではない。入り組んだ状況を制御して、いかれたカオスを巧みに作り上げている。緻密に計算されたバカバカしさを高く評価したい。

(古山裕樹)

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