第13回『このミス』大賞 1次選考通過作品 神山霜

昭和初期、関東の村で起きた集団自殺事件!
おぞましき秘密へと導く謎の「本」とは?
高密度で展開する深遠なる衒学ミステリー。

『禁書 リベル・プロヒビトゥス』神山霜

 昭和九年、京都の学生――蕗屋清一郎は、伯母の要請で関東山地にある葛瀬村を訪れる。ちょうど東京から戻って来た従妹――弓子から、村で若者の集団自殺が起き、彼女の弟――不二夫だけが脳に障害を負うも生き残ったことを知らされる。いったい村で、なにがあったのか? 動機の解明を依頼された蕗屋は、弓子から不二夫のノートを託される。そこには正体不明の“異端の書”がびっしりと書き写されていた。後日、十三世紀のパリ司教――タンピエが著した異端排撃書『断罪』にヒントがあると知った蕗屋は、京都の古書店へと急ぐのだが……。
 いっぽう大阪府警刑事――郷田は、千里山住宅で起きた女性記者殺人事件を追っていた。捜査によって、被害者が日露戦争の“ある秘密”を追い、オーストリアのレンブルク領事館の関係者と接触していたことを突き止める。だがその直後、軍部の人間に暴行され、「手を引け」と脅迫されてしまう……。
 まったく接点のない謎を追う蕗屋と郷田だったが、ともに同じ人物――黒岩周六なる京都帝国大学の元教授へとたどり着く。黒岩の口から飛び出した意外な事実を知った二人は、事件の発端である葛瀬村へと急ぐ――。
 今回読んだ応募作中、もっとも高い密度を誇る大作だ。ページをみっしりと埋める文章に圧倒されるが、知的な筆致は思った以上に流麗で読み疲れせず、適度な衒学趣味が醸し出す雰囲気もなかなか利いている。舞台は昭和初期だが、明らかにされる黒々とした真相に現代の悪しき体質が重なって見える趣向をはじめ、狂気が生み出す禍々しい美しさや哲学的な問いの投げ掛けに重みや深みを持たせる量感の活かし方も美点といえよう。
 個人的に強く惹かれたのは、書物が強大な力を持った劇物として描かれている点だ。常々、本屋の仕事は「たった一冊で人間を変えてしまうほどの毒も薬も売る商売」と心得ているので、思わず嬉しくなってしまった。おっと、閑話休題。
 物語の結構や主題の扱い方などに京極作品を思わせる部分もあるが、致命的な瑕疵というほどではないだろう。一次をクリアするに充分な出来といえる。

(宇田川拓也)

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