第13回『このミス』大賞 1次選考通過作品 宇田川眞人

美しき“合体仏”伎芸天像修復の真相。
「運慶修造説」をありえないとする“不在証明”に
仏像探偵が出した答えとは――?

『仏像探偵 古寺を行く』宇田川眞人

 奈良の秋篠寺にある伎芸天像。ヒンズー教最高の神――シヴァ神の髪際から生まれた天女を形にしたこの美しき像には、珍しい特徴がある。それは、天平時代に造られた原像の頭部と五百年後の鎌倉時代に造られた体部を結合した“合体仏”である点だ。
 小さな出版社を経営する篠原は、部下の園田と新人の万智を連れて秋篠寺を訪れ、伎芸天像の前に立っていた。そこで三人は、〈運慶伝説〉について話をする。伎芸天像は十二世紀に起きた火災によって損傷したが、大仏師――運慶の見事な技術によって修造されたといわれている。しかし、伎芸天と一緒に修復された梵天像から、運慶の死後六十六年経った正応二年(一二八九)に修造されたことを示す墨書が見つかっており、そうなると運慶の手による修造はありえない。なのに、なぜ〈運慶伝説〉なるものが生まれたのか? “仏像探偵”こと篠原は調査を重ね、ある答えを導き出す――。
 正直に告白すると、タイトルを見た瞬間「むう」と眉をしかめてしまった。奇をてらったユーモアものかな――などと気乗りしないままページをめくり始めたが、たちまち驚いた。しっかりとした文章で紡がれた、歴史ミステリーではないか。しかも、運慶没後六十六年の修復の謎を“アリバイ崩し”に見立てたり、運慶が伎芸天を修造しようとしたそもそもの“動機”についても推理するなど、ミステリーとして仕立てようという意識の高さが窺える。論文的になるかと思われた物語に篠原と女性ギタリストとの恋慕を融け込ませ、彩りを添える工夫にも好感を覚えた。たくさんの仏像写真を載せた親切設計(このままでの商品化は難しいだろうけど)だが、写真なしでも充分イメージ可能な文章力の高さも評価したい。
 気になったのは、情報を剪定する精度と真相の打ち出し方。本当に必要な情報か疑問を覚える箇所が散見するのと、衝撃的といえるほどの真相ではないとはいえ、思いのほかフラットなトーンで結論に至ってしまう淡白さは改善が必要だろう。

(宇田川拓也)

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