第13回『このミス』大賞 次回作に期待 宇田川拓也氏コメント

『ドレイク』小池康弘
『黒歌舞伎』黒葉雅人
『外資系戦略コンサルタント安東薫のプロジェクトファイル~大手総合電機メーカーにおけるクーデター支援~』志門凛ト

宇田川拓也コメント

 下は二十代前半から上は八十代の方まで、今回も熱のこもった力作の数々を拝読させていただきました。ただ、総じてライトな作風が多く(高齢の方ほど、その傾向が強いのは興味深い)、本屋の店員としてはそうした作品はもう充分にあるので、枯れた魂をも熱く滾らせるような、世界の見え方が一変してしまうような、世の理不尽に一矢報いるような――そんな読み応えのあるミステリーを創造していただけたら、より嬉しく思います。
 気になったことをひとつ。男女の恋の行方を描いた作品が複数あり――まあ、それはよいのですが、正直、どれもミステリー的な趣向が“おまけ”くらいにしか機能しておらず……。宝島社には「日本ラブストーリー&エンターテインメント大賞」もございますので、恋愛要素の強い作品で次回ご応募をお考えの方は、ご自身の作品を“ミステリー”として本賞に投じることが適切なのか、よくご確認いただきたい。
 今回は、プロフィール欄で作品よりも熱い人生自慢をされる方や、文章作法や書式があまりにも酷く読み通すのに難儀する作品が、これまででもっとも少なかった。どうか来年以降も、この傾向が継続されますように。

 さて、“次回作に期待”。
 『ドレイク』小池康弘は、日本を舞台にスナイパー・アクションを描くという難題に挑んだ意欲作。
 銃火器の詳細な解説をはじめ、豊富なミリタリー知識、ふんだんに盛り込まれたアクションなど美点はあるのだが、どうにも物語に乗り切れない。天才的な射撃能力を持つ元SIT隊員の女性主人公が花屋で働いていたり、かつての上司からの依頼内容がアイドルユニットの警護だったり、そのアイドルのしゃべり方が必要以上に舌足らずだったりと、出だしから違和感を覚える場面や演出が続き、シリアスなはずの物語のトーンがどうにも定まらない。中盤以降も同様の瑕疵が散見され、終始モヤモヤが拭えなかった(プロローグは、あんなにカッコイイのにもったいない)。絵空事ではない迫真のスナイパー・アクションを成立させるためには、プロの凄みに加えて、よりリアルで緊密な舞台設定とセリフ、そして意外性も大事だが、説得力のある真相が必要不可欠だろう。
 前回、最終候補にも残ったほどの実力の持ち主ゆえ厳しい言葉を連ねてしまったが、それは大きな期待を寄せる裏返しだと思っていただきたい。ミステリーシーンを鮮烈に撃ち抜く飛び切りのアクション、期待しています!

 『黒歌舞伎』黒葉雅人は、現代歌舞伎界の勢力争いを通じて、歌舞伎に隠された恐るべき“秘密”を描きだす異色の伝奇譚。
 素晴らしい文章力をお持ちの方で、歴史ある芸能を活写するに充分な硬度と重み、また改行や一行空けを駆使しての間の取り方、シーンの強調なども堂に入っており、この点はプロのレベルといっても過言ではない。歌舞伎の知識や見識も豊かで、二幕において披露される禁忌の演目「黒歌舞伎」の細やかかつ活き活きとした描写は、歌舞伎好きの方にはたまらないだろう。ただ、歌舞伎という主題に傾注し過ぎたせいか、いささか視界が狭く、全体に古色を帯びてしまった感は否めない。また、“秘密”の真相が吸血鬼というのも少々威力に欠ける。歌舞伎のいまとこれから――という視座を据えるため、舞台を現代にしたことは理解できるのだが、構成や展開にもう一工夫が必要だと感じた。
 これは個人的な願望だが、ぜひ黒葉さんの文章で風格ある時代ミステリーを読んでみたい。ふたたびのご応募、心よりお待ちしております!

 『外資系戦略コンサルタント安東薫のプロジェクトファイル~大手総合電機メーカーにおけるクーデター支援~』志門凛トは、若手コンサルと破天荒マネージャーのコンビが、大手総合電機メーカーのグループ改革最大の壁――会長兼社長のお抱え子会社の調査に乗り出すという、前回の最終候補作に続く企業コンサルミステリー。
 類のないアイデアは魅力的で、主要キャラの色づけや物語の起伏のつけ方なども器用。こうした点は「さすが!」と思った。ただ、全体に彫りが浅く、シナリオのノベライズを読んでいるような印象で、どうにもドラマが真に迫ってこない。たとえば冒頭で、主人公たちが勤める戦略コンサルティング・ファームを「世界最高の頭脳集団と呼ばれている」と紹介しつつも、その凄みが以降の展開を追っても一向に伝わってこないなど、もっと入念に推敲されていれば……と惜しまずにはいられない。また、クライマックスの緊急取締役会で死んだはずの会長兼社長が生きていたというサプライズは、奇をてらい過ぎていて驚くよりも唖然としてしまった。意外性を求め過ぎて説得力を欠いては、元も子もない。
 一度に二作品を投じてくるほどの方なので、新しいアイデアや温めている構想がまだまだあると推察する。どんどん形にしたい気持ちもわかるが、もっと練って磨き上げた熱い勝負球をぶつけていただきたい。

 それでは最後に、いつもの言葉で締めるとしましょう。
「書店員が頭を下げてでも売りたくなるような渾身の傑作を待っています!」
通過作品一覧に戻る