第13回『このミス』大賞 1次選考通過作品 青山茂隆

出だしからトップギア。
肌が紫色の怪物になってしまった中二男子が、級友を殺し、母を殺し、そして喰う! 
バランス感に優れたエンターテインメント

『ムラサキ』青山茂隆

 いきなりである。中二男子の肌の色が紫色に変わるのだ。教室内でそんな風に変化してしまった内山淳平は、自分で自分を制御できなくなる。何かに突き動かされるように暴れてしまう自分がいるのだ。しかも、人間離れしたパワーと運動能力を発揮できる。そしてその力でクラスメイトを殺してしまった紫色の淳平。教室から逃亡した彼は、その後、同じく醒めた意識と制御できない意識の狭間で自分の母親を殺害し、その身体の一部を食べてしまう。さらに人の命を奪い続けた彼だが、三浦という刑事に撃たれ……。
 ムラサキ事件といわれたその出来事が世間を騒がせたのは十一年前のこと。そして現在また世の中が騒がしくなってきている。三年前に始まった連続失踪事件、いわゆるイレイザー事件のせいだ。官僚や弁護士、医師や社長など、著名人の失踪が続き、メディアは、彼等は“消された”のだと騒いでいた。この事件を追っていた三浦は、あるとき、ムラサキ事件との関連性に気付く……。
 大きな流れとしては、イレイザー事件が現在進行形で描かれるなかでムラサキ事件の真相が少しずつ見えてくるという小説なのだが、様々な形で、なおかつ判りやすく読者の興味を惹きつけ続けるように作られている。
 例えばこの作品ではイレイザー事件の犯人である神山という青年が早々に読者の前に姿を現す。これによって犯人探しという興味を読者を惹きつける手札として使うことは出来なくなるが、その一方で、主体を隠した視点ではなく、神山という血の通った人間の視点での犯行をこってりと描けるし、また、イレイザー事件とムラサキ事件の線引きも明確に読者に伝えることが出来る。つまり、読者にもやもやした印象を与える箇所を排除しつつ、コアとなる謎については、きっちりと終盤まで真相を伏せて進んでいるのだ。
 こうした作りは、複数の視点で、二つの時代に焦点をあてて進む物語だけに、非常にありがたい。整理が行き届いているので物語にはスピード感が生じ、意外な展開もまた快感となるのだ。
 キャラクターの造形も、小説の構造ときちんと同期している。主役にも脇役にもくっきりとした輪郭を与えつつ、人物像の掘り下げは、必要かつ適切な範囲にコントロールしているのだ。例えば三浦やムラサキはきっちりと掘り下げ、その人物の物語としてしっかり読ませる。その一方で、いわゆる脇役陣は、その役割に必要な掘り下げだけを行い、物語の流れが淀まないようにしている。
 化け物で幕を開け、そこにイレイザーが加わって突き進む物語だけに、余計にこのバランス感のよさが印象に残った。良質のエンターテインメント小説である。

(村上貴史)

通過作品一覧に戻る
作品を立ち読み