第13回『このミス』大賞 次回作に期待 村上貴史氏コメント

『カスピ海の青き真珠』しじまけいすけ
『アクアリコール』水無月一
『秘密/脅迫』1301

村上貴史コメント

 しじまけいすけ『カスピ海の青き真珠』は、ロシアを舞台とした活劇小説。民族問題を掘り下げていて、それを事件と密に関連づけ、その上でエンターテインメントに仕立てるという取り組みは素晴らしい。展開もロシアという要素を活かしつつ十分起伏に富んでいるし、主人公である二十八歳の日本の商社員が、秘密警察の女性をはじめとする様々な女性キャラクターとああなったりこうなったりするという演出もなかなかにユニークでよい。これらが加点要素である一方、小説の造りにはまだまだ隙があった。民族問題を読者に伝える際、作者は登場人物の口を借りて説明を行うのだが、一旦説明モードに入ると、まさに説明のための口調になってしまうのだ。しかもそれが長々と続く。何人ものキャラクターがそうしたかたちで小説の背景を読者に向けて説明していた。興味深い舞台をきちんと把握して物語を仕立てているだけに、知識を小説の背景として読者に伝えるための工夫が、もう一つ欲しかった。
 水無月一『アクアリコール』の導入部はなかなかに素敵だ。ゲーム会社で働く洋介の職場にアルバイトとしてやってきた女性が、実は洋介のかつての恋人だった春乃であるという軽い興味で幕を開け、続いて、春乃が洋介を覚えていないという強い衝撃へと移行する。そこから春乃がたびたび記憶を失う、という謎へと連なり、何故彼女がそうなったのかを探っていく物語となる。いい流れだ。洋介が真相を突き止めようと、春乃の地元である町で繰りひろげる調査行も心地よく読ませる。問題は、だ。真相にひねりがないこと。伏線などから容易に予想できてしまうのだ。それ故に、感動的であるはずの場面でも感動がこみ上げてこない。そしてそのまま物語が完結してしまう。なんとも残念な余韻である。
 1301(これ、著者名だ)『秘密/脅迫』は、転校生がクラスの支配構造に挑むという一篇。支配のメカニズムやそれとの闘いなどが緊迫感たっぷりに描かれていて読み応え充分である。残念なのは、小学六年生の物語なのに、あまりに大人びた児童たちが数多く登場すること。小学校六年だからこそ生じるサスペンスが要素の一つとして持ち込まれているが、その巨漢の迫という児童のネタさえ諦めれば、他の全体を、例えば中学三年という年代に設定し直すことが可能で、そうすればこの小説全体に小説として充分なリアリティを生じさせることが出来ただろう。いい作品として完成しうる内容だっただけに、どうにも勿体ない。
 以上三作品の書き手の方々には、是非とも次回、さらにもう一磨きした作品で応募していただければと思う。
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