第13回『このミス』大賞 1次選考通過作品 天ぷら君

人間大のイカが歩き、しゃべる!
どこまでも続く奇奇怪怪な展開
「記憶とは何か」を追求した異色作

『イカのタワー』天ぷら君

 これは異様な物語である。
 しょっぱなから、奇奇怪怪なシチュエーションが展開される。人間大のイカが、立っていたのだ。いや、それだけでなく、こちらへと歩いてくるのだ。
 そしてイカは頭を下げて「こんにちは」と挨拶をした。そのイカは、なぜか十一本の足を持っていた。タバコを与えると、夢中になって吸っている。
 実は主人公は、知恵という女性に告白しようとしていた。それなのに、イカに遭遇してしまったのだ。
 だがシチュエーションが変わると、今度は主人公は大量のゴリラを飼育するゴリラ園で働いていた。そこには数百匹、数千匹のゴリラがおり、しかもその何分の一かは「ロボゴリラ」だった。このロボゴリラが、時々暴走してしまうのだ。やがて、このゴリラ園で大事件が勃発する。
 そのうち、主人公の記憶は、全てが「正しい記憶」ではないことが明らかになってくる。どこからどこまでが本当の記憶で、どこからが捏造された(植えつけられた)記憶なのか。
 そもそもこの世界は、本当の世界なのか……。
 本作では、異常なシチュエーションが次々に展開される。特に最初は、あまり説明ナシにこれでもかと奇怪なシーンが連続する。SF読者やファンタジー読者は興味を持って読み続けてくれるだろうが、一般読者のためには少し構成を変えて、もうちょっと早めに「なぜこの世界はこのようになっているのか」を(少しずつでも)明かしていったほうが、読んでもらい易いだろう。
 記憶とは何なのか、人間の意識とは何なのかを追及する物語はこれまでに幾つも書かれているので、そういう意味ではちょっとパンチが弱いかもしれない。
 いわゆる推理小説とは違うけれども、これまでに『トギオ』(太朗想史郎)や『完全なる首長竜の日』(乾緑郎)が受賞している「このミステリーがすごい!」大賞ならば、この作品も十分に受け入れることができるのは確かだ。
 最後に。いくらなんでも「天ぷら君」というペンネームはいかがなものかと思う。お笑い芸人の芸名やネットのハンドル名ではないのだから。今回、本になるかならないかは別として、改めたほうがいいだろう。

(北原尚彦)

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