第13回『このミス』大賞 次回作に期待 北原尚彦氏コメント

『鄧小平の遺言』村上卓郎

北原尚彦コメント

 今回、(少なくとも担当した中では)警察物が多かったです。最近、ドラマやベストセラー小説に警察を扱ったものが多いからではないかと推察されました。売れ線を狙うこと自体は悪いことではありませんが、それだけ高い水準が求められることも覚えておいて下さい。警察を描くにはその組織構造や捜査方法などをきちんと書き込まないとリアリティがなくなるので、しっかりと調べて書いて欲しいです。調べ物をする能力も、作家としての力量のうちなのです。

 さて、今回の「次回作に期待」作品は、『鄧小平の遺言』(村上卓郎)です。

 片山謙二は、自費出版社で働いていた。ある時、社ではなく彼自身のもとへ、永瀬高士朗という人物から出版依頼のメールが送られてきた。以降、少しずつ原稿が送信されてくる。それは一九八九年の天安門事件の裏に隠された陰謀、という内容だった。
 片山は、アルバイトの由美とともに、この件を調べ始める。すると、怪しい影が彼らの周囲で蠢くようになる。やがて過去と現在が、交錯し……。

 テーマは悪くないのですが、全体にもう少し、読者を先に引っ張る「牽引力」が欲しいです。それがないと、読者は読み続けてくれません。特にこれは「天安門事件」という歴史的な出来事を扱っています。最終的にどうなるのか、読者は知っています。本作でもその裏に隠された陰謀、というものは描かれていましたが、ちょっと足りません。もっと、「どうなるの?」と興味を引っ張り続ける要素が欲しいです。
 また本作は「視点」の置き方に問題が多々ありました。三人称で書かれているのですが、誰かの視点になった途端に、急にそのキャラクターの過去が差し挟まれたり、内面が延々と描写されたり。しかもそれが、ころころと変わったりするのです。読んでいて「これは誰のこと?」という部分が散見されました。
 作者は中国に留学経験があるとのことで、中国におけるパートは丁寧かつリアルに描かれていました。その一方で、ヨーロッパでのパートは書き込みが足りず、どうもお芝居の書割のように思えてしまいました。と申しますか、大昔の少女マンガにおける「どこだか分からないヨーロッパの国」のような印象でした。こういうところをきちんとしておかないと、たちまち「つくりもの」になってしまうのです。
 ごちゃごちゃと書き込みすぎは禁物ですが、ある程度は「設定」を深めておきましょう。きっちりと設定した上で、全ては書かない、というのも手です。
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