第13回『このミス』大賞 次回作に期待 膳所善造氏コメント

『三月の誘拐』御垣守
『重金属の叫び(ヘヴィメタル・シャウト)』志門凛ト

膳所善造コメント

 毎年感じることですが、一次を通過できない作品の大半は、全体のバランスが崩れています。例えば、キャラを立たせようとして属性を盛り込みすぎる、時系列に従って主人公が見聞きしたこと、思ったことをすべて書き連ねる、会話と説明文だけで描写がない、前半は緻密だが話が進むにつれてどんどん雑になり、最後はつじつまを合わせるのに精一杯、などなど。これらは、いずれも推敲を重ねることで改善できます。締切ギリギリに仕上げて満足な遂行も出来ないまま応募するくらいなら、いっそ納得がいくまで見直して、翌年送るくらいの覚悟で望んだ方が良いでしょう。

 さて、今回一次通過には至らなかったものの、光るところのあった作品を挙げておきます。
 御垣守『三月の誘拐』は、大学院進学を控えた主人公の青年ハジメが、研究室の先輩で四月から博士課程に進む春日さんに頼まれて、引きこもり中の院生・片岡を復学させようとする話。片岡が大学に来なくなった理由がメインの謎ですが、元凶の恐喝計画も杜撰なら、対処した片岡の行動原理も浅薄なため、説得力が感じられませんでした。また、ハジメ自身が抱える秘密がメインストーリーと連関していない点もマイナスポイントです。ただし、オセロのチャンピオンという春日さんの造形は面白く、文章もそこそこ書ける方なので、次回は、プロットを練り込んで挑戦されることを期待します。
 志門凛ト『重金属の叫び(ヘヴィメタル・シャウト)』は、伝説の日本人ヘヴィメタル・ヴォーカリスト、リンダ・ローズにまつわる謎と、二十五年の時を経て、その復活を目論む人々の活動を描いた物語です。前回の最終候補に残っただけのことはあり、文章は読みやすく、ストーリー展開もメリハリが利いています。ただし、ミステリとしてはいただけません。ラストで明かされる「意外な事実」二連発が、いずれも関係者にとっては周知の事実をぼかして書き続けて、最後に関係者の口からはっきりと語らせることで読者を驚かすタイプのものなのです。そのため、謎が判明したカタルシスは感じられません。そもそも作品世界では、何一つ不思議なことは起きていないのです。偶然を多用しすぎるのも問題で、いっそ、ミステリ仕立てにせずに普通の青春音楽小説として書いた方が、ずっと面白くなると感じました。
 以上二作につき、厳しいことを書きましたが、いずれも小説を書く力を持った方と感じた故の苦言と思って頂ければ幸いです。
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