第13回『このミス』大賞 1次選考通過作品 荒川伊福

地中海に面したスペインの飛び地メリリャを舞台に、
自爆テロに巻き込まれた日本人ガイドの活躍を描いた冒険譚

『哀しき煙塵の果て』荒川伊福

 北アフリカの地、マグレブの王国モロッコ内に、今なお残るスペインの領土メリリャ。地中海に面し、本土からフェリーで6時間以上かかるこの小さな自治都市で、観光ガイドとして生計を立てている真壁智治が、ツアー客を案内中に自爆テロに巻き込まれるシーンで物語は幕を開けます。
 九死に一生を得たものの、メリリャの抱える暗部を目の当たりにし、異邦人がガイドとして働くことに限界を感じた真壁。煩悶の末、元同僚とともに貧者救済を目的としたNPO法人《青い海原と赤い大地》に身を投じた彼は、やがてそこが人道支援という表向きの顔とは別に、弾圧下にあるアフリカ諸国からの不法移民に対して援助を行う裏の顔をもつと知らされるや、さらにやり甲斐を憶え、強制送還される不法移民の奪還計画に没入していきますが……。
 異国の空の下、流れ者の日本人が命の危険にさらされながらも、ある目的に向かって奮闘する物語は、船戸与一や逢坂剛、藤田宜永の諸作を始めとして、これまで数多く書かれてきました。こうした作品の場合、様々な負の要因、即ち、国家や組織の思惑、緊迫した社会情勢、そして人々の欲望や情念などから生じる障害に対して、主人公がいかに立ち向かい克服するかという点こそが一番の読ませ処です。この点で作者はきちんとツボを押さえているので、ストーリー展開が平板になることなく、最後まで楽しめました。
 基本に忠実な、所謂、新しい酒を古い革袋に入れた作品であり、構造やプロットの展開は定番そのものですが、メリリャというアフリカの中のヨーロッパを舞台に、不法移民とエネルギーという最新の問題をベースに醸成された独自の空気を漂わせる物語は、十分に一次通過のレベルにあると思います。

(膳所善造)

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