第13回『このミス』大賞 1次選考通過作品 山本巧次

捕り物好きの謎めいた美女は、二百年の時を超えてやってきた元OL。
文政の江戸と現代の東京を舞台にした謎解きミステリ

『八丁堀ミストレス』山本巧次

 文政の江戸を舞台に、両国橋の近くに住む捕り物好きの謎めいた美女おゆうが、懇意な間柄の八丁堀同心・鵜飼伝三郎とともに、薬種問屋の若旦那殺しの謎を追ううちに、闇薬絡みの事件の裏に潜む陰謀を突きとめる、とまあ粗筋をまとめると、ごく普通の時代ミステリのようですが、実は、とても独創的な作品です。というのも、おゆうの正体はミステリマニアの元OL・関口優佳。彼女は、祖母から受け継いだ家の納戸にあるタイムトンネルを通って、二百年の時を隔てて二重生活を送っているのです。
 この設定が素晴らしい。かつて都筑道夫は、「江戸時代を舞台にすれば、犯罪科学に邪魔されずに、論理のパズルを展開できる」として《なめくじ長屋捕物さわぎ》という謎解きミステリのシリーズを生み出しました。この作品は、そこからもう一ひねりして、科学捜査を用いて江戸時代の犯罪に当たることが出来たらどうなるか、を試みています。そのために優佳の知人として分析ラボを経営する宇田川という人物を設定し、血液や指紋といった証拠の分析を可能にしました。
 合理精神の持ち主プラス科学捜査なんて、まさに鬼に金棒状態。実際、殺人犯は苦労なく突きとめられるのですが、そこからが問題です。江戸時代の人間に対して、どう説明するか。通常のミステリとは逆で、名探偵が説得力のある推理の過程をひねり出すために頭を使うという点がとても新鮮です。しかも、こうした手法で明らかになるのは、あくまでも部分であり、事件の全貌を解き明かし真の犯人を指摘するステップは、仮説と論理の積み重ねによるもので、最終的にはオーソドックスな名探偵ものに仕上がっているのです。しかも最後には……、とこれれ以上は言えないのがもどかしい。ともあれ、自信を持って推せる気持ちよい謎解きミステリです。

(膳所善造)

通過作品一覧に戻る
作品を立ち読み