第13回『このミス』大賞 1次選考通過作品 水月彩人

十七世紀のスペインを駆けるサムライたち!
マヨール広場に聖母マリアを降臨させる奇策とは!?
王妃の宝物をめぐって繰り広げられる痛快歴史活劇!

『おお! サンタマリア!』水月彩人

 帰国せず、スペインに留まった慶長遣欧使節団のサムライ二人――原田兵庫と瀧野掃部は、その腕を活かし、裏の稼業で生きていた。ある日、マドリード一の歌姫にして掃部の元恋人――タティアナの依頼で、貴人の馬車を刺客の襲撃から護り抜いた二人に、サルバティエラ伯爵とイサベル王妃からある特命が下る。バチカンに急行し、枢機卿の持つ王妃の宝物《愛の宝石箱》を奪還せよ、というものだった。
 いっぽう、宮廷画家――ベラスケスは、フェリペ四世から愛人であるタティアナをモデルに聖母マリア像を描くよう命ぜられるが、異端審問所の長官――ホカーノ神父より「絵を完成させてはならぬ」と脅されてしまう。頭を抱えながらも絵を完成させたベラスケスだったが、王宮ではそこに“悪魔の顔”を見る者が続出し、騒然。タティアナは“魔女”として逮捕され、火刑に処せられることに。
 《愛の宝石箱》奪還から戻った兵庫と掃部は事態を知るや、ただちにタティアナの救出を計画。処刑当日の朝、マヨール広場に集まった群衆の前に聖母マリアを降臨させる奇策とは――?
 過去の応募作にも海外を舞台にした作品や時代歴史物はあったが、融合したものを読むのは初めてだ。こうしたどの応募作とも被らない独自性の高い作品でチャレンジした点を、まずは評価。兵庫と掃部を時代小説的な“侍”ではなく現代的な“粋な男たち”とした造形、史実に忠実であるよりも見せ場の躍動感や痛快さを優先した作り方を否定的に見る向きもあるとは思うが、エンターテインメントに徹したその潔さを支持したい。
 ただ、今回読んだ応募作のなかではもっとも一気呵成に読ませるものの、物語を構成するパーツのひとつひとつは王道的なものばかりで、斬新な作品というよりも手堅くまとめた印象が強いのは新人賞的に不利か。タイトルも一考の余地あり。とはいえ、全体の完成度は一次のハードルを越えるに充分。ためらいなく二次に推す。

(宇田川拓也)

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