第11回『このミス』大賞 1次通過作品 矢吹哲也

国会議事堂でばらまかれた大量の馬券。
元警察官で週刊誌記者の主人公は、
元新聞記者とともに、政界や業界の暗部に飛び込む

『スクープ・ハンターの乱舞』 矢吹哲也

 国会議事堂。衆議院の本会議の真っ最中に、傍聴席から大量の馬券がばらまかれるという事件が起きた。ばらまいた人物によれば、それはすべて当たり馬券で、合計すれば10億円になるという。その事件に当初から食い込んでいた『週刊エイト』の契約記者・半澤は、スクープとして金になると読み、相棒の黒須田怜に連絡を取った。かくして、元警察官の半澤と、元朝日新聞記者の怜が事件に飛び込むこととなったのである……。
 スピーディーな展開が心地よい。国会でのばらまき事件から、さらに場所を変えてのばらまき事件、そしてそれらに誘導された一般市民たちの熱狂へと、“表に見える現象”がエスカレートしていくと同時に、半澤と怜のコンビが、政界の暗部や業界の企みといった“表には見えない事情”を徐々に探り当てて読者に提示していく。この表裏一体の展開が力強く物語を牽引していくのだ。
 そしてそれを導くキャラクターがよい。プラモデルでいえば、バリがないのだ。口調や行動が経歴とスムーズに繋がっているし、だからといって萎縮して大人しくしているわけではなく、小説らしく現実離れしてはっちゃけてもいる。戯画化とリアリティのブレンド具合が実によいのだ。さらに、キャラクターの口調同様、地の文の語り口もよい。起伏に富んだストーリーをストレスなく愉しませてくれる。構えたところのない文章で、リラックスしている。ユーモアもきっちりと備わっており、かつ、漫画の手法をそのまま文章表現に流用したような、無自覚の甘さもない。そして全体のバランスもよい。長過ぎず短か過ぎず、この内容に相応しいサイズで、著者はこの作品を完成させている。ここはかなり評価したいポイントだ。
 あえて難癖をつけるとすれば、作品全体が“昭和っぽい”ところか。時代の最先端を行くエッジ感覚が、この小説にはない。だが、それは「良い馬だが角がない」というような難癖だろう。他の選考委員がこれからの選考過程でどう評価するかはその方々次第だが、少なくとも私は、この作品の形はこれでよいと思う。

(村上貴史)

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