第11回『このミス』大賞 1次通過作品 明利英司

復讐心に燃える女性と、ホームレス殺人事件を追う刑事、
失踪した同室者を心配する精神病患者。
一人称三視点の死角に潜む、あっと驚く真相!

『瑠璃色の一室』 明利英司

 閉店時間まで粘った喫茶店で会計を済ませた後、鈴木真理の手元に残ったのはわずか150円。故あって住み慣れた所に帰ることもできない彼女は、寒さに震えながら深夜の住宅街を彷徨った末に、「ラピスラズリ」という名のアパートにたどり着き、ようやくねぐらを確保する。宿を乞う彼女を好ましからざる者と勘違いして包丁で傷つけてしまった女性が、恐縮して部屋に入れてくれたのだ。人心地ついた彼女は一宿の恩人・西條春美と飲み明かしつつも、明日以降どうやって憎い相手に復讐しようかと考える。
 この鈴木真理と、ホームレス殺人事件の謎を追う刑事・竹内秋人、そして恋人に復讐するために失踪した同室者の行方を思い煩う精神病患者・桃井沙奈の3人が一人称で語るそれぞれの物語は、やがてひとつにより合わされ、あっと驚くクライマックスへといたる。
 企みにみちた作品です。語り手が認識する以上の事柄を読者は知覚できない、という一人称の特質を最大限に生かして、3つの視点から読者に物語を提示し、徐々に全体像を推察させていった上で、斜め上から蹴りを入れるような真相を提示し、あっと驚かせる。
 決して新しい手法ではありませんが、再読してみれば解るように、全篇に手掛かりをばらまき、入念に布石を配した上で、一文一文に心配りして読者の目を真相からそらす手際は、なかなかに見事です。
 最後の一文を蛇足と思うか否かで物語全体に対する印象が割れるでしょうが、まずは一次通過の水準を十分にクリアする作品です。

(膳所善造)

通過作品一覧に戻る
作品を立ち読み