第8回『このミス』大賞 1次通過作品 17

死体の傍らには、稚拙な文字による犯行声明。
連続殺人鬼「カエル男」の恐るべき凶行が、街をパニックに陥れる!
逆転に逆転が重なる暴走サイコ・スリラー。

『災厄の季節』 中山七里

 マンションの13階からぶら下げられた女性の全裸死体は、口蓋をフックにひっかけられて風に揺れていた。傍らには、子供が書いたような稚拙な文字による犯行声明。これが、埼玉県飯能市を恐怖と混乱の渦に陥れる怪人による最初の凶行だった。精神医学界の重鎮に頼りながらも、捜査は暗礁に乗り上げる。そして、さらに凄惨な殺人が繰り返される。やがて「カエル男」と呼ばれるようになった犯人の行動にあるパターンが見出されて、飯能市民は集団ヒステリー状態に。果たして警察は、カエル男を捕らえることができるのか……?
 心に歪みを抱えた連続殺人者と、その犯行を阻止するために奔走する警察の物語。同じような図式の作品は、数々の作家によって、これまでに多くの作品が書かれてきた。もはや単純に事件とその解決を描くだけでは、凡庸な作品の域を出ることはない。
 では、この作品にはどんな工夫がなされているのか?
 ミステリとしてはいたって正攻法。ただし、それを極端な形でやっている。どんでん返しで読者が驚くなら、何度でも大逆転を起こしてみせる。意外な犯人に驚くなら、とびっきりの意外な人物を犯人にする。ラスト近くの仕掛けが効くのなら、最後の一行に仕掛けてみせる。読者を欺き、驚かせるためなら手段は選ばない。日本の司法制度が抱えるさまざまな問題も、ここでは読者をびっくりさせるための素材に過ぎないのだ。
 過剰なサービス精神、あるいは自重を知らない稚気。それがもたらす魅惑に満ちた混乱は、欠点さえも愛おしく感じさせる魔力を帯びている。
 作者が新たな切り札を出すたびに、こちらの心が高揚する。ああ、その趣向をやってしまうのか。なんて無茶なことを。その無茶は止まるところを知らず、最後の一行まで暴走ジェットコースターに乗って繰り広げられる、狂乱と驚愕の殺戮劇。ああ、なんて無茶なことをするんだ。

(古山裕樹)

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