第7回『このミス』大賞 1次通過作品 10

『マインド・コンバイラ』 夏井優綺

 奈良県の山奥にある小さな村。そこは特殊な教育のために作られた村で、子供たちはみんな同い年だった。彼らは胎内にいるころから精緻な早期教育を受け、十五歳にしてすでに天才的な情報技術者に育っていた。特異な能力を身につけた、しかしそれ以外は普通の少年と少女。単なる悪戯に思えたコンピュータへの侵入を追いかけるうちに、自らを取り巻く世界の意外な事実にたどりつく……。クライマックスに凄まじい大風呂敷を広げながらも、物語はすべて奈良の山奥で完結している。

 まずは、作中に出てくるキーワードをいくつか列挙しておこう。

 中国語の部屋/人工知能/コンピュータ・ウィルス/右脳教育/ライフゲーム/サヴァン症候群/哲学的ゾンビ/心のハード・プロブレム/クオリア/コナミコマンド/フレーム問題/オープンソース/電波/逆コンパイル/チューリング・テスト/変性意識状態。

 難解な物語を想像されるだろうか? たしかに、会話にはテクニカル・タームが乱れ飛び、登場人物は脳と心をめぐる議論を交わす。夢野久作『ドグラ・マグラ』の一節、「脳髄は物を考える処に非ず」という言葉を連想させるやりとりもある。だが、決して小難しい話ではない。なにしろこの作品、乱暴に要約すると「男の子が、大好きな女の子の手を握るまで」の物語である。ただし、彼が彼女の手を握るまでには、上記のような話がどうしても欠かせないだけなのだ。

 設定をはじめとして、無茶に無茶を重ねたいびつな作品である。減点法で評価するなら、たぶん落としてしまったことだろう。だが、そのいびつなところがこの作品の最大の魅力である。手堅く無難にまとめるのではなく、書くべきことのために無茶を貫いた作者の志を高く評価したい。

(古山裕樹)

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