第5回『このミス』大賞 最終審査講評


大森望(おおもり・のぞみ)

無駄に長く書くことは無駄にハードルを高くする

 ぶっちゃけ、今回の選考はたいへんでした。制限枚数800枚ギリギリまでみっちり書く人が多すぎ。思いの丈を全力で原稿にぶつけるのはいいとしても、少しは読むほうの身になってほしい。規定枚数の上限は、ぴったりこの枚数まで書けという意味じゃありません。800枚の小説には800枚分の内容が求められる。無駄に長く書くことは無駄にハードルを高くすることと知るべし。

 青息吐息で全7作を読み終えたあと、大森が大賞の本命に選んだのは、伊薗旬『トライアル&エラー』。中心となるモチーフは、クラッキング・コンテストのリアル版というか、万全のハイテク警備体制に守られたビルの一室に侵入できるかどうかをチームで争う(物理的な)セキュリティ・アタックのコンテスト。金庫破りサスペンスの現代版としてはなるほどよくできた設定で、準備段階を描く前半は、映画「スコア」「ミニミニ大作戦」的な楽しさに満ちている。問題は後半。前回最終候補の「週末のセッション」と同様、幾何学的に美しい構成を採用し、一種のシチュエーション・コメディに仕立ててるんですが、意余って力足らずというか、書き方が律儀すぎる。かたちにこだわらず、省略できるところはもっと省略して、ドライブ感を出してほしい。伊坂幸太郎を思わせる軽妙さが身上なのに、不必要に重くなる箇所があるのもマイナス点。しかし、警備ロボットを使ったスラップスティックな場面の演出や、脇役のキャラクター造形、会話のセンスなど、光るところも多数。ちょっと直すだけでも相当よくなるはず。

 増田梗太郎『シャトゥーン』は、迫力満点のヒグマ小説。読者投票1位の結果が示すように、設定と冒頭のヒキは抜群。登場人物たちが立てこもった家をヒグマが襲うスプラッタな描写は『ジョーズ』並みにすさまじい。ただし、前半でピークに達してしまい、後半は息切れ。重傷を負った人間を連れての脱出行にリアリティが乏しく、読む側の熱が急速に冷めてしまう。誰もが指摘するとおり、ヒロインの過去の因縁話は不要。悪役キャラも、悪役ぶりを誇張しすぎている。といっても、こうした欠陥はわりと簡単に修整できそうなので、改稿を前提として優秀賞授賞に推薦しました。

 大森評価の次点は、阪東義剛『野蛮人のゲーム』。収容所の囚人たちがサッカー・チームをつくるという、どこかで見たような話だが、パターンどおりの安心感があってすらすら読める。試合に勝つ秘策が74年W杯で脚光を浴びたトータル・フットボール——というギャグ(?)に象徴される軽さが長所でもあり短所でもある。語り口と結末にもうひと工夫あれば、悪くても優秀賞には食い込めたかもしれない。残念でした。

 続く黒澤主計『オーレ・ルゲイエの白い傘』は、力の入った幻想小説。筆力は充分以上ながら、あまりに娯楽性が低い。エンターテインメント読者の大半は途中で投げ出すだろう。僕がこの人の長編を読むのはじつはこれが4作目なんですが、今回が一番の難物。ジョナサン・キャロル並みのストーリーテリングを要求するのは酷だとしても、ひとりよがりの説明や議論を削り、可読性を向上させる努力をしたほうがいいと思う。現状のままでも出版されれば一定数の固定読者がつきそうだが、さすがにこれで『このミス』大賞を狙うのは無理筋です。

 高山月光『暗闘士』は、これまた力作ながら、読み通すのがさらに苦痛だった。およそ小説の文章とは思えない演説が数ページにわたって続き、心底うんざりする。エピソードも過剰なら説明も過剰。ヒロインには感情移入できず、浮世離れした会話は目をおおうばかり。最後までたどりつけば重量級の小説を読んだ満足感が得られるが、そういう奇特な読者は少数だろう——と思ったのに選考会では票を獲得。世間には僕より辛抱強く寛大な読者が多い証拠なのか。驚きのあまり、大幅改稿を前提にした優秀賞授賞に強くは反対しませんでした。

 卯月未夢『偽りの夏童話』は数年前に流行したタイプの本格ミステリ。冒頭のヒキはまずまずだが、列車を降りるあたりからどんどんダメになってゆく。“意外な真相”も既視感が漂い、意外性ゼロ。よくある話でも、人物なり文章なりがもう少しうまければ評価できるが、そのレベルには達していない。独創性か、技術力か、受賞には最低でもどちらかが必要だろう。

 平野晄弐『大地鳴動し霊山咆哮す』は、たぶん4年前に別の賞で読んだ作品。そのときでさえ、テーマはともかく小説が古臭すぎると思ったが、石黒耀『死都日本』、藤崎慎吾『ハイドゥナン』、鯨統一郎『富士山大噴火』などなどが登場し、映画『日本沈没』リメイク版が公開され、『日本沈没 第二部』まで出てしまった今とはなっては限りなく時代遅れ。にもかかわらず最終候補まで残ったのは立派だとも言える。


香山ニ三郎

大混戦の最終選考を制したのは……

 前回、最終候補作が六作に増えたと思ったら、今回は七作。この調子で来年は八作、再来年は九作になるのか、選考委員とて油断出来ないのが『このミス』大賞。今回もそれだけ甲乙つけ難い佳作傑作が揃ったに違いないと思って繙いたものの、結論からいえば、本命作品なきがゆえの混戦模様となった感じ。

 デジャヴューといおうか、全体的にどこかで見たり読んだりしたような作品が多かったが、読んだ順にいくと、まず阪東義剛『野蛮人のゲーム』は1978年、軍事政権下のアルゼンチンで収容所に送られた元サッカー選手の日本人会社員が収容所内のチームで奮闘する。そこにもうひとり、謎めいた日本人が囚われていて、という設定には胸踊らせられたが、これって映画『ロンゲストヤード』+『勝利への脱出』をそのまま70年代のアルゼンチンに持ってきただけなのでは。語りも熟れているし、キャラクターも立っている。これでオリジナリティに溢れる話だったら、今年はこれで決まりだった!? 作者には独自の話作りで再挑戦されることを望みたい。

 完成度という点では、続く黒澤主計『オーレ・ルゲイエの白い傘』も一、二を争う出来映えだった。こちらはかつてドイツの森で夢の中に出てくるようなお菓子の家を発見したことがある娘が夢の現実化騒動に巻き込まれていくホラー系のファンタジー。語り上手で一気に読ませるが、惜しむらくは魔法頼りの夢の現実化という方法がいかにも安易で、こんなんで夢が現実化出来た日にゃ、世界は夢の中身で溢れ返ってしまうんじゃないか。

 そのトンデモなさにちょいと白けた(死語)ものの推薦者がいたら共闘してもいいと思ったが、ワタクシ以外、評価する者なしに終わった。作者は今回の応募者の中では最年少であったが、他の賞でも最終候補に残っている実力の持ち主。ホラー/ファンタジー趣向にひと工夫して、ぜひ再挑戦していただきたい。

 受賞作の伊薗旬『トライアル&エラー』は最後に回して、卯月未夢『偽りの夏童話』は自殺した女性推理作家の愛読者たちが謎めいたミステリーツアーに参加、ひとり、またひとりと殺されていく。インターネットに仕掛けられた冒頭のテストゲームには牽引力があるが、その後ツアーで展開する本ゲームのほうは島田荘司の諸作や『金田一少年の事件簿』なんかでもお馴染みの演出だったりする。本格ミステリー王国の日本では今現在も様々な作風が模索されているし、生半可な話作りでは既成の後追いは免れないだろう。どうせならマイケル・スレイドばりの破天荒なクロスジャンル趣向に挑んでみるのも手かと。

 平野晄弐『大地鳴動し霊山咆哮す』は大地震が相次いだあげく、ついに富士山が大噴火。その惨状に国政も揺れる中、某国が通貨攻撃を仕掛けてくる。というわけで、こちらは自然災害系のパニック小説に経済金融系の国際謀略サスペンスをクロスさせたところが味噌。そのアイデアは買いだが、災害パニックものとしては石黒耀や高嶋哲夫等による近年の同系作品の域を越えるまでには至っていない。ステロタイプな人物造型やご都合主義的な活劇演出もいささか安易な印象を与えるし、良くも悪くも全体的に荒っぽい仕上がりだ。個人的には災害ものは贔屓なので、作者には藤崎慎吾『ハイドゥナン』等も参考に、もう少しこのジャンルを追求していっていただきたいと思う。

 残る二作、高山月光『暗闘士』と増田梗太郎『シャトゥーン』は前者が選挙サスペンス、後者が動物ホラーということで、題材的には充分魅力的。ただ、前者はヒロインの女候補とそれを影でサポートする元公安刑事がいずれも暗いキャラ。説明過剰な部分が多いこともあって全体的に鈍重な仕上がりという印象。いっぽうの後者は年末、北海道・手塩の大学研究施設に集まった男女が羆に襲われ次々と食い殺されていく。吉村昭の名作『羆嵐』の現代版で、ストレートな怪物ホラーとしてインパクトありだが、随所のスプラッタ演出で羆は完全に鬼畜扱い(畜生だけど)。いや、登場人物の多くは皆ロクでもないヤツだし、神の使いとしてヒトを懲らしめるということならもっと徹底してもいいくらいなのだが、羆もまた環境破壊の犠牲ということだと過剰な鬼畜扱いはいかがなものか。そうした羆扱いに違和感ありということで、こちらも点が辛くなったが、いずれも力作であるのは間違いない。強力な推薦意見もあったし、優秀作受賞については拒まなかった。

 受賞作の『トライアル&エラー』は何よりセキュリティをテーマにした企業主催の侵入ゲームというアイデアとそこに異色の探偵コンビやダイヤモンド強奪犯を絡ませた軽快な活劇演出に惹かれた。作者は昨年も最終候補に残り、ワタクシ、その応募作自体は評価しなかったが、「先の読めないサスペンス演出」や「全体にヒネりをつけた大仕掛け」に期待、というこちらの選評に応えていただけたこともプラス評価。注文も少なくはなかったが、そうした“伸び代”に期待して本作を積極的に受賞作に推した次第である。


茶木則雄

原石の魅力は、この作者が一番である

 賞を決める上で、今年ほど元気の出なかった選考会はない。
第一の要因は、これで決まり、という頭抜けた本命に出遭えなかった点にある。いや、たとえ頭抜けた作品はなくとも、例年であれば、強力に推したい作品が一つは必ずあった。欠点はあっても、誰が反対しても、自分はこの作品に賞を取らせたい。自ら省みて縮(なお)くんば千万人と雖(いえど)も吾往(われい)かん——そうした気概を奮い立たせてくれる掌中の珠が、これまでは必ずあった。

 しかし今回は、自分の中で「本命」はおろか「対抗」までもが見当たらない、というのが実情だ。どれもこれも一長一短あり、どれもこれもそれなりの水準に達している。粒揃いという意味では、今年ほど粒の揃った年も珍しい。
こうなると目立つ粗や疵の中から、それぞれに仄(ほの)見える原石の輝きを、どう評価するかという問題になる。小説観の違いも含めて、評価がばらばらに割れたのも、当然と言えば当然かもしれない。

 いつになく慎重な議論を重ねていった結果、賞の対象外として消えていったのは、『偽りの夏童話』『オーレ・ルゲイエの白い傘』『大地鳴動し霊山咆哮す』だった。
『偽りの夏童話』の最大の疵は、独創性に乏しい点にある。完璧なオリジナリティを要求するものはないが、特異なキャラクタ造形や会話の妙など、もっと何か光るものがなければ、受賞は困難だろう。それなりに瑞々しく読ませはするものの、既存作品の後追いという感は免れない。

 『オーレ・ルゲイエの白い傘』の文章力はなるほど特筆に価する。が、一部の選考委員が絶賛するその面白さが、私には最後まで分からなかった。フランスのリヨンが登場する必然性はあるものの、リアルさの欠片もないその世界観についていけない、というのが率直な感想だ。これほど娯楽性に乏しい作品も、本賞では珍しい。

 『大地鳴動し霊山咆哮す』は、対象外となった作品の中では最も読み応えのある作品だった。災害パニック小説として傑出した出来とはお世辞にも言えないが、そこに金融謀略サスペンスの興趣を加えた新鮮さを私は高く買う。登場人物がステロタイプなのは事実だし、展開がいささかご都合主義なのも確かだ。しかし新しいタイプの作品を生み出そうとする作者の心意気は、諒(りょう)としたい。

 賞の対象として残った4作はいずれも、私に言わせれば首差、鼻差の着順である。残念ながら入賞叶わず4着に沈んだのは、『野蛮人のゲーム』だ。私個人は、完成度という意味では最も高い点を付けた作品である。アルゼンチンを舞台にする必然性も充分だし、その地の刑務所の日常もリアルに伝わってくる。海外を舞台にした作品の中でも、唯一、評価に値する応募作だった。語り口は上手いし、何よりもサッカー小説として抜群に面白い。欠点を挙げるとすれば、いささか小粒であるのと、新鮮味に乏しい点だろう。人物造形をはじめ、クライマックスに至る過程にいちいち既視感が伴うのは、如何ともし難い。しかし書ける人であるのは間違いないところだ。捲土重来を、強く求めたい。

 最終的に残った3作は、モロ写真判定である。肉眼で見る限りは、『暗闘士』が鼻差で差したように感じられた。この小説、既存の選挙小説と比べても、一頭抜けている感がある。断言してもいいが、選挙サスペンスとしては国内ベストだ。この部分は圧倒的に面白い。が、それ以外の点で、粗が目立ちすぎる。続編を予告するかのような、新人賞の応募作にあるまじき行儀の悪いラストを修正し(このラストにはホント、腰が砕けた)、カルト教団の余分なエピソードを削り、選挙における個のドラマをもっと引き立たせれば、強力に推せる大賞候補になり得ただろう。惜しいの一語に尽きる。

 2着に入ったのは『シャトゥーン』、と私の目には映った。「ひぐま小説」として、これもまた滅法面白い。野生に関する該博な智識を駆使した熊と人間の息詰まる攻防には、まさに目を見張るものがある。迫力満点で実に読ませるのだ、これが。しかし『暗闘士』同様、容易に目に付く欠点も少なくない。過去の因縁話はリアリティを損なうだけでなく、サスペンスそのものを停滞させるマイナス要因でしかない。山小屋のシーンでの中途半端な人間関係も、説得力を持ち辛いという点で不要だろう。熊と人間の戦いを全面に押し出し、余分なエピソードを削っていれば、これも強く推せたはずだ。残念という他ない。

 3着かと思えた『トライアル&エラー』だったが、写真判定の結果、意外にもわずかに逃げ残っていた。前回の応募作『週末のセッション』を読んで以来、私はこの作者のファンである。構成の巧みさといい、目映(まばゆ)いばかりに光る文章のセンスといい、いずれ世に出る才能だと、そう思っていた。しかしこの作品で、というのは、素直に賛成できない。

 なるほど「ブレイクスルー・トライアル」というイベントで描かれるセキュリティ技術の数々は非常に魅力的だし、アイデアも実に豊富で飽きさせない。センスある文体も、相変わらず光り輝いている。斬新性という観点からも充分、大賞に推すかどうかの議論に値する作品だと思う。

 しかし率直に言って、この設定と構成はいただけない。襲撃小説の醍醐味である緊迫感が、作者の意図するほどこちらに感じられないのだ。緊迫感に欠ける最大の要因は、バーチャル・ゲーム的スタンスに寄りかかるのか、リアリズムに立脚するのか、判然としない中途半端な設定にある。持ち味である軽妙さと、襲撃小説の根源に位置するリアリティが分離し、巧く融け合っていないのである。律儀過ぎて強弱のない構成にも、不満が残った。

 とはいえ、原石としての魅力は、この作者が一番であることに異論はない。本賞の設立意義を鑑み、欠点を修正するという条件付きで、大賞に賛同した次第である。見事欠点を克服し、改稿された暁には、襲撃小説の新たなる旗手に盛大なエールを贈りたい。


吉野仁

「ご都合主義」や「ちぐはぐな世界観」はダメ

 今回、残念ながら圧倒的な評価による一作は挙がらなかった。それぞれに難点があり、決め手に欠ける。ご都合主義で成りたっていたり、虚構の度合いに対する統一感が欠けていたり、構成が粗かったりするものが多かったのだ。

 その三つの欠点がみごとに揃っていたのが、受賞作『トライアル&エラー』だった。

 登場人物たちの過去の因縁に合わせるかのような設定、シリアスなのか冗談なのかはっきりしない展開、サスペンスに乏しいちぐはぐな構成。わたしは最低点をつけた。すべての人物が単なるゲームの駒でしかなく、パズルのつじつまをあわせるかのように出来あがっている。読んでいて、小説世界に入り込むことはなかった。

 たとえば、大企業が主催する「警備システムのテスト」というコンテストに応募しようとする連中が、銃器武装して参加するだろうか。リアリティ不足というよりも、ディフォルメした世界観を読み手にすんなり受け入れさせるだけのデッサン力が足りないのだと思う。最初から虚構性を強く打ち出し、どこか現実離れしたコミカルな世界の中の話だと示しておけば、人物の突飛な行動にも違和感を抱かない。そして、設定とプロットに合わせて人物を動かすのではなく、その人柄や思考ならではの言動を一貫させて話を進めていけば、おのずと単なる「作り物」の感じは薄れるはず。

 もっとも本作は、警備システムの盲点をつくためのアイデアがふんだんに盛り込まれており、潜入、工作、脱出という強奪もの冒険小説の基本ストーリーが芯にある。あと求められるのは小説としての完成度なのだ。

 なぜこの作品が大賞受賞したかといえば、本作を高く評価した他の選考委員と協議の結果、刊行までにそれらの部分を可能なかぎり直すという条件がついたためである。「『このミス』大賞」は、短所より長所を評価しようという姿勢で設けられているため、強くは反対しなかった。今後、作者の手腕がいっきに上達することを期待するばかりだ。

 逆に最終候補作のなかで、わたしがもっとも高い点をつけたのが『暗闘士』。人物の描き方もよく、選挙をめぐる陰謀の数々も面白い。やや文章が硬く、無駄な場面があるなどの欠点も目立ち、手放しで絶賛できるわけではないものの、全体を通じて筆力を感じた。長々とした説明の部分を減らし、主要人物たちの行動と会話のやりとりで進める「ドラマ」の描写をより中心に展開していれば、もっと強く大賞候補に推しただろう。

 もう一作、語り口がうまく、もっとも無心で楽しめた作品が『野蛮人のゲーム』だった。読みやすさ、ということでは新人ばなれしている。しかし、こちらも主要人物がすべて過去の因縁で結ばれているなど、あまりにも作者の都合通りに物語が出来あがっている。また、つねに複数の異なる動きからプレーが進行していくサッカーの試合経過を一視点の文章で読むのはいささか辛かった。実力は文句なしにあると思うので、ぜひとも次々と新作を書きあげてほしい。

 そのほか、熊との闘いを描いた『シャトゥーン』にせよ、地震をめぐる『大地鳴動し霊山咆哮す』にせよ、すでにプロの作家によりいくつもの傑作が書かれたテーマであり、とくに新味があるわけでもなく、強いサスペンスを感じることはなかった。一文ごとの改行が続く『シャトゥーン』の文章の軽さ、題材ゆえ、長々と説明の続く場面のある『大地鳴動し霊山咆哮す』の読みづらさなども気になったところだ。

 ネットで知りあったもの同士が集められ、そこで殺人事件が起こるという『偽りの夏童話』も、ありがちな設定で強引に話が進んでいくわりには、意外性に乏しい。最終候補に残っただけあって、そこそこ書けてはいるものの、独創的なトリックなど、なにかもうひとつ作者にしか書けない長所が欲しかった。

 『トライアル&エラー』とともに、もっとも評価が低かったのは、『オーレ・ルゲイエの白い傘』だった。この作品のテーマになっている「夢を実現化する方法」という意味が理解できなかったのだ。現実には決してありえないことがこの作品内では起こる。つまり、ファンタジーなのだろうか。物語の世界観がさっぱりつかめない。虚構のレベルがどこにあるのだろう。「夢の実現化」「お菓子の家の目撃」などといった小説内の出来事が、いっさい論理的ではないのに、なにか論理があるかのように物語が展開している。読んでいて、戸惑いしか覚えなかった。面白いという感覚には決してつながらない困惑である。

 今後、本賞に応募しようと考えている方々は、物語の設定や展開に、明かな「ご都合主義」や「ちぐはぐな世界観」の部分がないかどうか、いまいちど見直してほしいものだ。