最終候補作発表!
次選考の結果、最終候補作は以下の6作に決定しました。
本賞では、荒削りでも未知の可能性やオリジナリティの感じられる作品を評価します。今回、選にもれた方、応募を見送られた方も、次選考選評ならびに10月上旬に発表する最終選考結果を参考にしていただき、第5回『このミステリーがすごい!』大賞にぜひご応募ください。第5回の募集要項は大賞発表時に本サイトに掲載します。(『このミス』大賞事務局)
心臓の代替手術を次々と成功させていた大学病院。ところが三例続けて術中死が発生し、神経内科教室の万年講師が患者の死に関する謎を追う
大金を必要とする四人の男たちが、それぞれに詐術の企みを抱く。お互いの尻尾を食い合い、その結果彼らを待っているものとは
賭け金はおのれの人体のパーツ。人体の部位を模したカードを使ったデスゲームが、いま始まる!
失踪した父がかつて設計した廃屋で、死体を発見した写真家志望の青年。奇妙な手紙の差出人によって、彼は父の影に立ち向かうことに……
主人公は、常に要領よく立ち回ってきた双子の妹を嫌悪していた。そんな妹がパーティで毒殺され……。犯人に共感した主人公が、真相を探る本格ミステリー
孤島で高校のクラスの面々が一人また一人と殺されていく。殺人ピエロが人を殺しまくる、現代の『そして誰もいなくなった』
2次選考選評
今回は結果がどうなるか、予想が極めて難しい選考会だった。ある原稿を一人の選考委員が推せば、別の選考委員は最低評価をつける――といった有様で、議論は紛糾を繰り返した(通過作が六作とやや多めなのもその結果である)。それだけ、美点も問題点も含め、極めて個性の強い原稿が多かったということであり、選考委員の立場としても、各自のミステリー観・小説観を賭けて、有意義な討論を行なえたと思う。
そんな中、真っ先に最終選考行きが決定したのが『チーム・バチスタの崩壊』だった。医学ミステリーはさまざまな前例があるため、少々の目新しさではなかなか選考を通りにくいものだが、この作品は、冒頭の謎の魅力といい、キャラクター描写といい、風変わりな探偵役の設定といい、隅々まで行き届いた計算といい、どこを切っても及第点以上と言えよう。
『週末のセッション』『カメラ・オブスキュラ』『ツキノウラガワ』の三作は、選考委員から満遍なく高めの評価を集めた。個人的には『カメラ・オブスキュラ』の完成度の高さ、犯人像のおぞましい迫力を推すが、他の二作も、それぞれ弱点はあるものの、先が楽しみな才気を感じさせる。
一方、『人体愛好会』と『殺人ピエロの孤島同窓会』は、選考委員のあいだで評価が真っ二つに割れた作品である。『人体愛好会』については、どう考えても小説より漫画向きのアイディアではあるのだが、それを敢えて小説で書こうとした無謀すれすれの意欲を買いたい。『殺人ピエロの孤島同窓会』については、最終的に多数決に従ったけれども、私にはどこに見どころがあるのか全く判らない作品なので、他の選考委員のコメントを参照していただきたい。
さて、惜しくも次選考で落とされた六作だが、実は予選を通過した作品群と較べて、極端にレヴェルが低かったというわけではない。
完成度の高さでは『遠い約束』が抜きんでていたが、同じようにオーソドックスさと全体的な完成度の高さで勝負をかけてきた『カメラ・オブスキュラ』と比較されたのが不幸だった。応募原稿の中に似たような傾向の作品がなければ有利であり、あればどうしても比較の対象となってしまうが、こればかりは運不運である。
逆に、他のどの応募原稿とも重ならない独自の路線で挑んできたのが『宝妃』である。脱力系ギャグの連続に呆れ返りながらも、気がつくと思わず爆笑している自分に気づかされる。楽しく読めたという点では、今回のナンバーワンかも知れない。ただ、筒井康隆や田中啓文といった先行作家の作品と較べれば、まだまだ練り込みが足りない。
残り四作は、『遠い約束』『宝妃』より一段落ちる。
『劇団「あんこう」の犯罪』は、評価が割れた作品で、私は否定派に廻った。たとえどんなに動機が善意や理想に基づいているとはいっても、所詮この犯人グループのやっていることは、障害児の誘拐という卑劣極まりないものでしかない。それを爽やかでヒューマンな犯罪であると読者に錯覚させるには相当な筆力が要求されるが、残念ながらそこまでの伎倆は感じなかった。
『熱帯に降る雨』は、異邦に滞在する日本人と、現地の人々との価値観の落差を、ミステリーとしての仕掛けに絡めた作品。いささか地味すぎ、読んでいて気が滅入るけれども、妙に読後感があとを引く小説ではある。
『秘密の花園』は、登場人物のやさぐれっぷりの描写にリアリティがあったが、ミステリーとしてはさほど新味を感じない。特に前半の冗長さが減点対象となった。
『くちさけ』は、前回最終選考まで残った応募者による再挑戦だが、前作ほどの奇想に欠けるので、構成や文章の拙さばかりが印象に残った。また、この作品は今回1次選考を通った十二の応募原稿の中で、最も誤字が多い(前回、複数の選考委員からあれだけ注意されたにもかかわらず)。この応募者は既にプロとして活躍している人なので、ミスを直してくれるのは編集者や校正者の役割であると心得ているのかも知れないが、新人賞に応募するからには、全くの素人と横一列のスタートラインに立たされるのが当然。甘い心がけでは、千二百万円に手は届かないと考えていただきたい。
新人賞の選考を自分ひとりで出来ればどんなに楽しいだろう、と思うことがある。無論、一瞬頭に浮かぶ冗談に過ぎないが、今回の次選考が紛糾する過程で、この冗談のような思いは何度も頭をよぎった。実際、他の賞の選考をやっていると、今年は何勝何敗などという話が打ち上げの席で出ることも珍しくない。
今回最も残念だったのは『秘密の花園』が最終候補に残らなかったことだ。小味といえば小味の小説だが、冒頭からラストまで物語世界にどっぷりと浸らさせてくれる力量を捨ておくにはあまりにも惜しい。主人公をはじめとするそれぞれの人物の行動原理が説得力を持って読む側に伝わってくる。ことに資格取得予備校をリストラされた主人公の中年男の造形が抜群にいい。社会的にも家庭的にも、彼が置かれている侘しい立場が読み手の側にしかと伝わってくる。言ってしまえば、プロットも設定もありがちなものと言えなくもないが、よくある話をここまで説得力を持って展開できる才能はプロの域に近いものを充分に内包している。奥田英朗の『最悪』にも似て、淡々とした物語展開の中で主人公の運命に興味共感を抱かせることによって、ページを繰らせる力を如実に感じ取った。この人は書ける人だと思う。ミステリーとしてさほど新味を感じないとか、傑出した魅力に欠けるとの意見が他の選考委員より聞き出され、落選となった。しかしこういうありがちな話をしっかり読ませる作家は、実は貴重な存在ではないかと私は思っている。次作では傑出した描写力をぜひ見せ付けて欲しい。
次に、議論が分かれたのは『劇団「あんこう」の犯罪』だった。アイディアは評価すべきものが充分にある。しかし、一言で言って小説としてのコクに欠けるというのが私の意見だ。謎は魅力的であるにもかかわらず、その謎の解明を早い段階で読者に提示しているため、先を読む楽しさに著しく欠ける。プロットの整理の仕方を再考して欲しい。倒叙型ミステリーにするのか、謎解きの要素を重視するのか、その辺りが中途半端である。ただこの作者は、アイディアと謎の構築力には見るべきものが充分にある。捲土重来を期待したい。
続いて惜しいのは『宝妃』である。屁をテーマにこれだけの小説に仕立て上げる作者の根性はただものではない。しかも、おちゃらけた話のようでありながら、ストーリーの細部に気を配り、物語の世界観がしっかりと構築されている。一番重要なのは、思わず吹き出す描写が少なからずあることだ。最終選考委員が、読めなくて悔しがる顔が目に浮かぶようである。しかし、こういうタイプの作品で、新人賞に応募することは極めて不利と言わざるをえない。最終的に物語にカタルシスがあり、胸に残る何らかのものがあれば、最終に残る可能性は無論ある。しかしながらこの作品は奥行き、深みという面において他の最終候補作に劣る面は否めない。貴重なものを読ませてもらった感謝の気持ちはあるけども、さすがにこれで100万はいかがなものか、と言うのが次選考委員の一致した判断だった。
おそらく『遠い約束』は他の新人賞であれば、問題なく最終候補に残った作品だと思う。減点法でいけば、極めて失点の少ない作品である。人物造形、ストーリー、ストーリー展開、文章力、どれをとっても水準をクリアしている。しかし残念ながら、読み終わった後、残るものが全くと言っていいほどない。再三言うようだが、こういう作品は『このミス』大賞では最も評価されにくい典型だ。どれかひとつでも突き抜けたものがないと、最終にはなかなか残れないと思う。『カメラ・オブスキュラ』との比較もあり、最終に残らなかった次第である。
『熱帯に降る雨』も『遠い約束』同様、減点の少ない作品ではあった。ベトナムを舞台にした新人賞応募作という点で、垣根涼介の『午前三時のルースター』との比較になるのもやむをえまい。が、『午前三時のルースター』に比べると、いまいち物足りなさが残る。人物造形に古臭さを感じるのが最大のマイナス点だ。
最後に『くちさけ』である。前回応募作の『血液魚雷』を買っていただけに、今回の作品は正直言って、非常に物足りなさを感じた。仮にもすでにプロとして作品を世に出している以上、大賞を狙うには読み手がひれ伏すぐらいの力作が必要なのではないか、と個人的には思っている。今回の『くちさけ』は客観的に評価しても、1次通過レベルでしかないというのが私の意見だ。
最終候補に残った6作品については、最終選評でじっくり語りたいが、それにしてもこの賞の年々アップするレベルの高さには驚くばかりである。仮に今回落ちた6作が最終候補であっても、私は驚かない。
「格」の存在なんて認めず、「色眼鏡」も掛けない。そういうスタンスで選考には臨んでいる。要するに、本格であるという理由だけでハードボイルドより高く評価することもしないし、他の賞で最終まで残った人だからという理由で高く評価することもしないという心構えで作品と相対すると言うことだ。
これは当然の姿勢だろうと考えるが、今回は、それを改めて問い直されるような作品に出会った。『宝妃』である。タイトルの音が示すようにオナラをネタとした小説で、馬鹿馬鹿しいといえばこれほど馬鹿馬鹿しい話もないのだが、「屁」に関して鯨統一郎の歴史解釈のような力業を展開したりするなど、とにかく最初から最後まで愉しませてくれたのだ。結論を言えば、『宝妃』はその強烈な魅力は認めるものの、爆笑小説としての完成度にやや難ありということで最終選考には残らなかった。だが、仮にこの作品の完成度が水準以上であり、例えば重厚な感涙ドラマとラスト1枠を争うことになった場合、その判断に「千二百万円にはお下劣ギャグ小説より重厚な作品の方がふさわしい」などというジャンルに優劣を付けてそれで作品の合否を判定するようなケースが生じないかということを、この『宝妃』の当落を判断するにあたって考えさせられたのだ(1次選考でこの作品を選んだ杉江松恋が「蛮勇」という言葉を使っているが、選考委員、読者、あるいは主催者など、新人賞にかかわるあらゆる局面においてパロディは不利という認識が遍在しているという認識が、その言葉を使わせたのであろう)。とりあえずこの作品がここまで残り、他の次選考委員からも一定以上の評価を得たことから、本賞がずいぶんと健全なのだと認識できて、それは嬉しいことではあった。
さて、そうした(手前味噌を含めた?)新人賞全般の話はこのくらいにして、その『宝妃』を蹴落として最終に進んだ六作品についてのコメントを記そう。
まず、個人的に最も高く評価したのが『週末のセッション』である。四つの視点から描かれるいささかとぼけた犯罪の物語は、伊坂幸太郎臭さがつきまとう点はさておき、実に洒脱で洗練されたミステリであった。四つの視点の循環だけで最後まで走ってしまうと言う単調さをも上手に回避している点もよい。『人体愛好会』は、リチャード・ジェサップ『シンシナティ・キッド』やレナード・ワイズ『ギャンブラー』、最近であれば冲方丁『マルドゥック・スクランブル』といったギャンブル小説として非常に面白く読める。その観点では勿論最終候補にふさわしい。しかしながら、自分の臓器を賭けるという設定が作中で大して効いておらず、それ故にタイトルも作品の魅力と著しく乖離したものとなってしまっているのは難点。修正のタイミングがあれば、修正を考えて欲しい(臓器の要素を作品とさらに絡めるか、あるいは割り切って改題するか、など)。『チーム・バチスタの崩壊』は、主人公の相棒役が登場する第二部が抜群に面白い。応募作品中最高と言ってよかろう。犯人が登場してから最終ページまでが長すぎたようにも思うが、最終選考に残すことに異論はない。『カメラ・オブスキュラ』は、人物の整理をもう少し進めて欲しいとは思うが、結末を含め魅力十分。『ツキノウラガワ』は、毒殺ミステリとしては傑出したところはさほどないが、タイトルや主人公像を含めて、そのコアを取り巻く要素がきちんと考えられており好感が持てる。しかも、人を食ったような結末も添えられており、そこもまたこちらを喜ばせてくれた。『殺人ピエロの孤島同窓会』は、とにかく次から次へとたたみかけるように何かが起こり、全く退屈させない点を評価したい。リアリティがないとか軽いとかいう物差しで測れば落第必至だろうが、ことページをめくらせるという物差しであればこの作品は実に優れている。
その他の落選作について。『殺人ピエロの孤島同窓会』同様、数々のエピソードをテンポよく示してページをめくらせるのが『劇団「あんこう」の犯罪』だったが、読者に開示する情報の交通整理をすれば、より魅力的になっただろう。『秘密の花園』は十分に読みやすい犯罪小説であり、二千万円という中途半端な額を脅し取るという犯行にふさわしく犯人が造形されていて好感が持てたが、最終候補作がそれぞれなんらかのかたちで備えていた「傑出した魅力」に欠けた。『遠い約束』は実にかっちりした人捜し小説であり、主人公の男女ペアも魅力的に描かれていたが、『秘密の花園』と同様の理由で最終候補には至らず。残る二作は、これらと較べると明らかに一枚落ちる。『くちさけ』は、厳しい言い方をすると無難に読めるという以上の魅力(例えば謎の女の存在感の強烈さや展開の妙など)がなかったし、『熱帯に降る雨』は、ベトナムという舞台に必然性はあるものの、実は○○でした、実は××でした、で着地してがっかりさせられる。
最後に落選作への提言を。『くちさけ』『熱帯に降る雨』のお二方は、今回の1次通過という結果を過信せずに精進いただければと思う。他の落選作の著者の方々は、これまでの受賞作を読んで大賞の水準と御自分の作品の相違を冷静に判断した上で次回作を磨きあげて応募していって欲しいと思う。これはもちろん『宝妃』の著者についても同様だが、この方については、この路線のまま完成度をとことんまで突き詰めていって欲しいという気もする。エンターテインメント界に新たな日の出をもたらしてくれそうな、そんな予感がするのだ。例え屁の香りの日の出であっても、それはそれで歓迎である。