2次選考の激論の結果、最終候補作は以下の6作に決定しました。
今回、プロットやアイデア、舞台や人物設定は面白いのに、書き込み・複線の張り方が足らず、その魅力を活かしきれないまま傑作になる可能性を自らツブしてしまっている作品があり残念でした。プロット・アイデアは目いっぱい描きこんでください。小説技術のみならず、体力・根性も必要となってきます。
また、面白いのに「どこかで読んだことがある感」がする作品も2次選考ではソンをしています。ある作品や作家に惚れて追従する“オマージュ”とそれとは、まったく異なるということを理解してください。
本賞では、荒削りでも未知の可能性やオリジナリティの感じられる作品を評価します。今回、選にもれた方、応募を見送られた方も、以下の2次選考選評ならびに10月上旬に発表する最終選考結果を参考にしていただき、第2回『このミステリーがすごい!』大賞にぜひご応募ください。第2回の募集要項は大賞発表時に本サイトに掲載します。(『このミス』大賞事務局)

最終候補作
  • 『熱砂に死す』 島村ジョージ
  • 島村ジョージ
  • サハラ砂漠縦断という冒険行のさなかに“幻の黄金都市”トンブクトゥーで行方不明になった異母兄、その秘密を追う主人公の「冒険」とは

  • 『そのケータイは、XX(エクスクロス)で』
  • 上甲宣之
  • 「とにかく数だけはたくさん読んでいるつもりですが、ミステリーにはまだこんな手が残っていたか、と感心させられました」と選考委員もハマった1作

  • 『沈むさかな』
  • ティ エン
  • 父の死の真相を探る主人公は17歳の高校生。海辺を舞台にしたサスペンスはスクーバダイビングの描写も素晴らしい

  • 『タード・オン・ザ・ラン(TURD ON THE RUN)』
  • 東山魚良
  • 死刑制度が廃止され囚人管理体制が大きく変わった近未来の日本を舞台に、欲に駆られ結託と裏切りを繰り返す脱獄囚たちを描くクールでクレイジーなクライム・ノヴェル

  • 『四日間の奇蹟』
  • 浅倉卓弥
  • 脳に障害を負った少女とピアニストの道を閉ざされた青年が山奥の診療所で遭遇する奇蹟。ひとつの不思議なできごとが人々のもうひとつの顔を浮かび上がらす

  • 『俄探偵の憂鬱な日々』
  • 香住泰
  • いいかげんな男たちが小知恵を働かせて、いくつかの詐欺をもくろむが、その計画が思わぬ方向に転がってしまい……

2次選考選評

茶木則雄氏コメント
レベルの高い候補作が揃った!

前評判通りである。他の新人賞と比べても近年になく、レベルの高い候補作が揃った。募集期間が半年足らずだったことを考えると、これは嬉しい誤算と言わざるを得ない。

激戦を勝ち抜いた最終候補作については、本選考会の席上で、じっくり語りたいと思う。ここでは捲土重来を期して、惜しくも選に洩れた1次選考通過作品に触れてみたい。

個人的に最も惜しまれるのは、『花は紅』である。文章力、構成力、細部の確かさは、充分、最終候補のレベルにあった。タイトルおよび筆致は志水辰夫を、公安内部の暗闘を絡めた警察小説的興趣は大沢在昌『新宿鮫』を、ハードボイルドの方向性と主人公の造型は北方謙三を、それぞれ意識したものと思われるが、本家の域にはいまだ距離がある。一言で言えば、手堅くはあるけれど、全体的に新鮮味に欠ける印象を受けた。後半が淡白な点――ことに謎の核心に迫るアプローチの安易さは、マイナス要因として明記しておく。しかし他の新人賞であれば、過去の経験から言って間違いなく、最終選考に残った応募作だと思う。次回はオリジナリティに富む意欲的作品で、ぜひ再挑戦していただきたい。

現役の大学生による応募作『セピアの翼』は、その若さに似合わぬ確かな人物造型と瑞々しい筆致が、最大の魅力であった。高校生を主人公にした青春学園小説として、実に好感の持てる作品に仕上がっている。カンニングという“日常の謎”をテーマにしたミステリー的手法も悪くない。ただ惜しむらくは、最後のどんでん返しがリアリティを台無しにしていることだ。真犯人とも言うべき人物の「犯行」の動機に、あまりにも説得力がなさ過ぎる。意外性を狙ったのだろうが、最後の詰めがこれでは画竜点睛を欠く、と言われても仕方あるまい。ただし将来性は、大いに買う。次回作をこれまたぜひ、読ませて欲しい。

読み始めた途端、これはっ、と思わせたのが『媚薬』である。トボケた筆致といい破天荒なストーリー展開といい、実に斬新な魅力に富む書き出しであった。だが先に行くに従って、期待はもろくも崩れる。全体に「描写」が薄く、「説明」が長いためだ。「描写」と「説明」の違いを解説すると長くなるが、簡単に言えば、登場人物の職業や年齢をそのまま書くのが「説明」で、それをストーリーのなかでごく自然に、読者に分からせるのが「描写」である。本作はまるで、長い長い梗概を読まされているような気分であった。アイディアと筆致に見るべきものがあるだけに、惜しまれる作品である。

残念ながら『リマインド』『羊たちの眠れる森』には、魅力を感じられない。1次を通過した作品だからそれなりの長所もあるが、選考会で指摘された欠点の数々――散漫な構成、説得力のない動機、魅力に乏しいキャラクター造型など――は、如何ともし難い。最大の欠点は、両者とも文章がいかにも稚拙な点だ。厳しい言い方をするようだが、まずは文章力を磨くべきだろう。

問題は残りの二作、『かふぇ ど あるけにい』『その名は零』である。

「それは、コーヒーが媚薬であった、最後の時代の物語……」という印象的な書き出しではじまる『かふぇ ど あるけにい』は、戦前のデカダンスを背景に、幻想的かつ耽美的な世界と本格ミステリー的興趣を融合させた作品である。いささか適確さを欠く、やや無神経な言葉遣いも散見されるが、そのリズム感溢れる文体の妙は、1次レベルとしては特筆されて然るべきだろう。美少女、ロリコン、やおい系部分がシラケる、という意見もあったが、全体的レベルは充分、2次選考に値する作品であった。

また『その名は零』は、『鷲は舞い降りた』や『ベルリン飛行指令』の系列に連なる大戦秘話物冒険小説として、なかなかに読ませる作品に仕上がっている。新鮮味はないが完成度の高さにおいては、最終候補に残してもおかしくないレベルだと思う。ディテールも確かだし、『A10奪還チーム出動せよ』を彷彿させるクライマックスのカー・アクション・シーンも、出色とは言えないまでもそれなりの迫力があった。

ただこの二作には、大きなマイナス要因がある。一度、もしくは二度、他の新人賞に応募して落選した作品であるという点だ。新人賞の予選委員に兼任が少なくないのは、こうしたチェック機能を働かせるためでもある。

無論、これが選に洩れた理由のすべてではない。一度落ちた作品を改稿のうえ他の賞に応募することは、厳密な意味でのルール違反には当たらないからだ。が、こうした作品は、選考の過程で明らかなハンデキャップを抱えることになる。大賞レベルに達した作品でもない限り、それが分かった時点で、まずもって最終候補には残れないだろう。これは他の賞でも同じである。改稿を繰り返して同じ作品を応募する作者は、将来性に乏しいと判断されるからだ。作家志望者は厳に、戒めるべき行為と銘記されたい。

最後に少しだけ、最終候補作について触れておく。

輝かしい“原石の魅力”を感じさせる作品があった。抜群のリーダビリティを誇る、斬新なエンターテインメントがあった。そして何よりも、出会えたことを感謝したくなる、感涙の傑作ファンタジーがあった。

今から本選考会が、楽しみでならない。

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千街晶之氏コメント
磨きをかけて再チャレンジを

まず、2次選考を通過した6作品について述べたい。

『熱砂に死す』だが、これだけ起伏に乏しい物語を、最後まで退屈させずに読ませる筆力は大したものである。選考では「余りにもクサい」という意見も出たが、その青臭さがテーマなのだから仕方ないだろうし、むしろそのセンチメンタリズムに得難い個性を感じた。ただしエンタテインメントとしては、もう少し話にメリハリがあった方がいいだろう。

『そのケータイは、XXで』は、相当無茶な話だし、文章も下手である。しかし、読み手を物語世界に引きずり込む妙なパワーはある。ハードカバーで出すような小説ではないが、ノベルス向きというか、B級のアナーキーな面白さが横溢している。

『沈むさかな』は、イメージ喚起力のある文章に独自の魅力が存在する。二人称という語りには幾つかの前例があるが、この作品の場合、一人称では最後に明かされるトリックを成立させるのは不可能に近いし、かといって三人称でも難しいだろう。事件の背景となる陰謀にはいささか荒唐無稽なところもあるが、幻想的な雰囲気のせいで、さして気にならない。

『タード・オン・ザ・ラン』は、前半の語り口のセンスに感心した。ところが、主人公たちが脱獄してからの展開は、破綻しているとしか思えない。せっかく前半から登場しているキャラクターが活写されているのに、ファム・ファタル的な悪女を含め、後半になって登場するキャラクターが書き割りめいて実在感に乏しいのも減点対象。ただ、全篇にみなぎるパワーには凄味がある。

『四日間の奇蹟』は、文章の完成度では候補作中随一だろう。本筋のアクシデントが発生するのは実に物語の半ばに達してからなのだが、そこに至るまでの部分でも弛緩することのない筆力に舌を巻いた。問題は、この作品が果たしてミステリーなのかどうかという点。東野圭吾の『秘密』を連想させずにはおかない設定だが、『秘密』よりもミステリー度は低い。ミステリー系の賞より、小説すばる新人賞あたりに相応しいように思える。

『俄探偵の憂鬱な日々』は、最も多くのミステリー的なネタが詰め込まれ、話の纏まりも良い。悪党だが憎めない二人組の言動もいきいきしている。彼らが探偵事務所で働いている点に必然性を感じられなかったが、それくらいは瑕瑾(かきん)か。ただ、新人賞の受賞作に相応しい華には欠けるかもしれない。

以上6作以外では、『花は紅』『その名は零』『かふぇ ど あるけにい』『セピアの翼』の4作に、予選通過作品に迫り得たかもしれないという可能性を感じた。『花は紅』はミステリーとしての骨格は悪くないし、警察組織におけるキャリアとノンキャリアの対立というありふれた題材を更に一ひねりした才気も買いたいが、最後に悪役が(さしたる必然性もなく)ぺらぺら喋ってしまうことで真相が明らかになるという構成の拙さが致命傷となった。ミステリーにおいて謎解きは一番盛り上がる要素なのだから、単なる説明のための説明であってはならない。『その名は零』は大きな弱点もなく、纏まりの良い小説だが、読み手を作品世界に没頭させるだけの勢いに欠ける。『かふぇ ど あるけにい』は、戦前日本の浪漫の世界を彷徨するかに見せかけて、実はミステリー的に着地するという狙いに感心したが、日本語としてちょっと如何なものかという表現が散見されて評価を下げた(例えば、「大地震自身」という表現はどうか。「じしん」と発音する言葉がふたつ続くのも美しくないし、地震は人間ではないのだから「自身」ではなく「自体」であるべきだろう)。こういう耽美系の小説では、他のタイプの小説ではまだしも許される文章上の瑕が致命傷となり得るということを覚えておいていただきたい。『セピアの翼』は、選考でも「好感が持てる」という意見が続出した作品で、確かにキャラクター造型には感心したが、このネタで長篇一本を読ませるには相当な筆力を要する。カンニングの謎解きに焦点を絞るか、青春小説的な部分に比重を傾けるか、いずれかを選べば、もっとピリッと締まった小説になったと思う。

他の作品は、忌憚なく言えば眼高手低の印象を免れなかった。いくら波乱に富んだストーリーを思いついたからといって、それをそのまま書いても面白い小説にはならない。高級素材を使ったからといって、誰でも美味い料理を作れるとは限らないのと同様である。小説はストーリーの単なる説明であってはならない。こんな事件が起きました、次にこんな出来事が起こりました、さあ面白いでしょう……と言われても読者は困るだけなので、作者の感興を読者に伝達するための表現力を身につけていただく必要がある。ただ、どの作品も、新人賞の1次選考通過作としてはかなり高い水準に達していることも事実。せっかくの才能なのだからぜひ磨きをかけて、今後もチャレンジしていただきたい。

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村上貴史氏コメント
最終候補作以外で気になった作品は…

議論の末、六作品を最終選考に残したわけだが、当方としては、特に三つの作品に思い入れがある。そちらを先に紹介するとしよう。

島村ジョージ『熱砂に死す』は、一見すると冒険小説的な印象を受ける作品だが、骨格は恋愛小説である。しかしながら、その恋愛を支えているのは、紛れもないミステリーの魅力なのだ。十五年前にサハラに消えた兄の真意はどこにあったのか、さらに、当時の関係者たちそれぞれの「隠し事」とは一体何だったのか。異母兄の心を知ろうとして調査を始めた弟の物語である。

そうした恋愛小説およびミステリーの魅力を支えているのが、文章力であり、キャラクターの造形力である。いずれも奇抜さは狙わず、しっかりと地に足のついた仕上がりとなっている点がすばらしい。特に、思いこみの激しい主人公に対して、周囲の人物の冷静な視点で物語を引き締めるあたりのバランス感覚は見事。とはいえ、キャラクターに関しては、ヒロインが女性読者の反感を買うタイプとの指摘も2次選考会であった。そういう見方があることも否定はしないが、当方としては、反感を買うというレベルまでキャラクターが確立していることとして、むしろ著者の才能をプラスに評価しておきたい。実際、多くの支持を得ているエンターテインメント作品においても、女性読者からは「あの女性キャラクターはダメ」と言われることも少なくない。要するに、そうした欠点を補うだけの魅力を作品全体で備えているかどうかが勝負なのだ。そして、『熱砂に死す』はそれを備えているのである。

上甲宣之『そのケータイは、XXで』は、『熱砂に死す』とはまるで異なるタイプの小説だが、最後まで一気に読ませるという面では甲乙つけがたい。三部構成の小説だが、特に第一部と第二部が出色の出来。しかも、第一部と第二部がそれぞれ別のテイストを備えている点も素晴らしい。ちょいと間抜けなヒロインが怪しい温泉宿で追いつめられていくという第一部のスリル、そして、ヒロインの友人が事件の背後にある仕掛けを明かしつつ、その一方で彼女自身も追っ手から逃れなければならないという第二部のスリル(公衆便所での攻防戦が見せ場である)。この二つのスリルが、絶妙のレイアウトで作中に配置されており、読者を魅了し続けるのだ。それに対して、第三部はそれまでのまとめの役割を果たすのだが、ここがいささか小ぢんまりしてしまったのが残念である。

文体についてもふれておこう。はっきり言ってチープである。しかしながら、そのチープさが作品の内容と実に見事に一体化しているため、マイナス評価にしようがなかった。浅倉卓弥の『四日間の奇蹟』は、実に完成度の高い作品である。人物描写や情景描写などの形で丹念に積み重ねられたエピソードが中盤の衝撃へと読者を導き、そしてラストの感動へと読者を誘うのだ。《感動》などという気恥ずかしい言葉は使いたくないのだが、この作品から得られるものは、やはり感動としか呼びようのないものである。

さて、この作品の中核となるネタは、実をいうと数年前ベストセラーになり、映画化もされた有名作品と非常によく似ている。従って、ネタだけの勝負ということになれば、当然予選落ちしていただろう。だが、この作品はそのネタを活かして、登場人物たちの心を鮮やかに描ききったのである。それも、ずば抜けた演出手腕で……。ネタの活かし方という意味では、前例となった作品を凌駕している一面さえある。特に、後半でそのネタをもう一ひねりして主人公を更に揺さぶる場面があるのだが、いやはや、この展開には唸らされた。脱帽である。

残りの三本についても十分愉しく読ませていただいたが、何かしら弱く感じられる点があったのも事実。というわけで、それら三作については手短に。

香住泰『俄探偵の憂鬱な日々』は、個性や自己主張の強いライバルたちに混じっても、その穏やかさ故の存在感を失ってはいなかった。散歩の途中の鼻歌のような力の抜け具合を誇る小説でありながら、コンゲーム小説として大切なポイントはきっちり書かれている点が、この作品のパワーなのだろう。堅実さという点では図抜けた出来映えである。

ティ エン『沈むさかな』は、ダイビングシーンや二人称という叙述の意味について、他の選考委員の評価が高かった一冊。だが、ミステリーとしての本書を支えているネタが巨大組織の暗躍である点や、あるいは、着想としては新鮮味に欠ける殺人トリックが使われている点などが気になった。

東山魚良『タード・オン・ザ・ラン』は、当方お気に入りの一冊である。異様な状況設定への説得力、叙述の巧みさ、警句の冴え、キャラクターの個性など、即戦力級の素晴らしい要素を数多く備えているのだ。あえて難点をいえば、脱獄に成功してから役者が増える割に、物語がスローダウンすること。こうした欠点が直れば、大賞候補の本命ともなりうる。

これら六本の予選通過作品以外で気になったのは、碓氷夏巳『セピアの翼』である。犯人の行動の一部に最後まで納得の出来ない点は残るが、それが克服されれば良い作品に仕上がるはず。次回も期待したい。

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